▼ 海デート1
「うわ―――!!臣、見て見て!すっごい奇麗!」
後ろでかっこつけている彼の腕を取ってあたしは水面ギリギリまで連れていく。
LIVEツアーも無事に終わって、ほんの少しだけお休みが取れることになった臣は、1番はじめにあたしを誘いだしてくれた。
「どこ行きたい?」
そう聞かれてすぐに「海っ!」そう答えた。
季節が秋から冬に変わりつつある今日この頃…
陽が落ちるのもだいぶ早くなってきて、できれば温かい所にいたい…そんな季節。
だからこそ、この大きな海が見たかった、臣と二人っきりで。
バイクであたしを乗せて連れてきてくれたこの場所はいわば穴場で。
そんなに人もいない。
もう営業していない海の家を通って砂浜を歩くあたし達。
水がキラキラしていてすっごく奇麗。
夕陽が沈む前で世界がセピア色に輝いていた。
「寒くねぇ?」
「平気、平気!海入れるかな?」
「さすがに無理だろ」
「えー…入りたい」
臣の腕を引きながら海水がスレスレを歩いていて。
「ユヅキ、濡れるって!」
「でも入りたい!足入ろうよ、臣〜」
「冷たいって!」
「そりゃ水だもん!でもあたし入りたい…」
「…分かったよ」
クシャってあたしの前髪に指で触れた。
嫌な顔一つしないで楽しそうに笑っている臣。
夕陽に照らされた横顔がすごくかっこいい。
オレンジ色に染まった髪の毛と、スッと通った高い鼻と出っ張ってる喉仏があたしの心を虜にしていく。
靴を脱いで靴下もその中に入れて、ジーンズを捲りあげた臣は、既に裸足になってるあたしの手を取って一歩水面に足を入れた。
「冷てえっ!!」
あたしを見て目を大きく見開く。
「気持ちぃ〜!」
「気持ち良さよりも冷たさのが強いんだけど、ユヅキ本当こーいうの好きだよね」
「うんっ!あたし田舎でも暮らせるよ」
「だろうな」
「臣も一緒に暮らす?」
「やーだ。俺いつかロスで暮らすから…そん時はユヅキも連れてく」
…フワって後ろから臣の温もりに包まれた。
強烈な臣のどぎつい香水ももう慣れた。
首元に回された臣の腕をそっと下から触れると、チュって髪にキスを落とす。
「拒否権なし?」
「拒否する気あんの?」
「だって英語喋れないよ〜あたし」
「NOVA通ってよ?」
「続くかな〜」
「んじゃ直人さんに習う?」
「へ?直人さん喋れんの?」
「だって直人さんダンス留学であっちに住んでたもん」
「そうなんだ!でもゆきみに怒られそうだからいいや…」
「はは、んじゃNOVAな!」
「もう、強引〜」
「好きでしょ?強引な俺も」
「…うん」
「ユヅキ…」
クルリと腕の中で身体を反転させる臣。
真っ正面に臣の胸板があってそこから少し距離を取るあたし達。
臣の後ろに大きな夕陽が見えて、ゆっくりと水平線へと沈んでいく。
―――太陽と海がキスをする時間。
ゆっくり近づく臣に、そっと目を閉じると、臣の優しいキスがあたしの唇に触れた―――