▼ 抱きしめたい1
人間なんて、人に言えない秘密の一つや二つ持ってる生き物だ。
「臣ちゃん、今日ご飯行かない?」
同じ会社の後輩のユヅキ。
ユヅキと付き合って1年がたった。
表情がコロコロ変わるユヅキは見てて飽きなくて、正直可愛い。
話す内容も一風変わってて、その発想の良さから企画部でもいい仕事をこなしているようだった。
営業の俺達は企画部で出した案を各社でプレゼンをしてCMを勝ち取りに行く。
「あー悪い。今日、博報堂の奴らと飲み会で。若手の忘年会に呼ばれてて…」
「博報堂か!それなら仕方無いね。んじゃダメ元でゆきみさんでも誘ってみるー!直人さん残業ならいいなぁー」
「ぷっ!それ直人さんに遠まわしに言うんだろユヅキ!まぁでもあの二人ほとんど一緒に住んでるようなもんだからな!俺明日なら何もねぇから!」
「あはは、だってゆきみさんいつも直人さん優先なんだもーん!明日はあたしダメなの!野暮用で!」
「…俺別に高価なもんより、ユヅキの手料理とかで全然いいよ?」
「…考えとくね!」
「はは、イヴは空けとけよ!」
「うんっ!」
俺の腕に絡まっていたユヅキは楽しそうに鼻歌を歌いながら自分のフロアへと戻っていく。
世間一般的にいう、恋人って関係。
俺とユヅキは至って普通の恋人って奴。
この会社に入社してから俺は二度恋をした。
一人はユヅキ。
そしてもう一人…―――
「ゆきみさん、今夜ご飯どうですか!?直人さん残業でしょ!!臣ちゃん博報堂に取られちゃって寂しいですー」
企画部の前、ユヅキがゆきみさんの腕に絡み付いてやっぱりな誘い。
世間一般的に言う、直人さんの恋人であるゆきみさんとユヅキは同じ部署の先輩、後輩に当たる。
ユヅキの発想の良さを引き出したのもゆきみさんで、自分の部署に引き抜きしたのもゆきみさん。
直人さんっていう、仕事のできる恋人がいて、ユヅキが言うに二人は理想のカップルだって。
「あはは、臣くん飲み会?仕方ないなぁ、直人が残業終わるまでなら付き合う!」
「マジすか?やった!直人さんになるべくゆっくり残業してくださいって言ってきます!」
「ぶっ。直人ユヅキちゃんに甘いからなぁ!」
意気揚々と企画部を出ていくユヅキの後ろ姿を目で追っていたであろうゆきみさんが俺の存在に気づいて目を細めた。
軽く手を振ってるから俺も振り返す。
理想のカップルねぇ…。