▼ 面倒くさい奴*1
「ほんまに面倒くさいやっちゃな。」
――――――そう言った目の前のそいつは、軽々と私をその腕の中に閉じ込めたんだ。
世の女たちよ、覚えておくがよい。告白されたからといって調子に乗っていると痛い目に合うということを。
「ユヅキちゃんのこと、好きやねん。付き合うてくれへん?」
同期の健ちゃんこと、山下健二郎くんが真面目にそんなことを言ってきたのは、遡ること一週間前。私と健ちゃんは、同期中でも特段仲が良くて、周りから見たら付き合ってなくても付き合っていると思われているぐらいだった。だからよく二人でふざけてベタベタしたりもしたけれど、実際の私たちは単なる同期ってだけ。自分の気持ちを辿るなら私は健ちゃんのことが好き。おちゃらけて見えても老若男女誰からも好かれているし、いざって時は本当に頼りになる人、だった。
真剣に告白してきてくれた健ちゃんに、いざ私も...そう言えばいいのに、
「え?冗談でしょ?やめてよそーいうの!もー。ほら、次会議行くよ!」
...最低な回答を浴びせたのは重々承知の助。でも今まで仲良しだった同期って関係をどうにも恋人にもっていく自信がなかったんだ。
「ま、そらそーか。けど冗談にすんなや。俺かてたまにはマジなこと言うねん。その気になったらいつでも言いや。な!」
ポンポンって頭を撫でられて微笑む健ちゃんに胸がギュッと締め付けられたのは悲しい事実。
ねぇ素直に私も好き!ってなんで言えないの?馬鹿なの?こんな素敵な人逃していいの?頭の中では繰り返させる自問自答。だけど私は「冗談にするし、その気になんて一生なりませんよー!っだ。」ニヒヒって笑ってみせる。
まるで中学生みたいな答えに自分でも嫌気がさした。
健ちゃんごめん、本当の本当は大好きなの!
前を歩く後ろ姿に小さく心の中で呟いたんだ。