▼ 1ミリのキス1
願わくば―――――あのバイクの後部座席に乗りたい。
ババババババ…
金曜日の夜はだいたいこの辺を通るって知ってる。
それが暴走通路で、あたしはいつもあの背中を見るのが好きで一人家を飛び出していた。
スタンドの隣にあるコンビニの前にあるベンチに座ってただその煌びやかなテイルランプが通るのをいまかいまかと待っている。
随分遠く離れた場所からでも分かるその音に思わず頬が緩む。
黒の特攻服を纏ったその姿が一目でも見れると思うと嬉しくて思わず身体を乗り出す。
だけど、その姿は今日に限って一向に来ない。
え、なんで!?
風邪!?
ブーンと音を立ててコンビニに入って来たのはたぶん同じチームの人なんだろうけど知らない顔。
あたしを見て一瞬目を大きく見開いた。
バイクを停めてゆっくりと近づいてくるその足どりは軽い。
「何してんの?一人?」
うわ、声かけてきた、最悪!
お前となんて話すつもりないから!
って、脳内で悪態をつくもあたしは困った顔で首を傾げるだけ。
「中学生?家帰んなくていいの?送ってってやろうか?」
う○こ座りして煙草を吸い始めたそいつは明るめの茶髪と色素薄いブラウンの瞳。
クソ寒いっていうのに色白の肌には白い特攻服とその下にサラシだけ。
か、風邪ひくよ?
「大丈夫です」
「送るって!それとも、遊びに行く?」
馴れ馴れしく話しかけてくるこいつが嫌だなーって思っていたところに、あたしの音が近づいてきた。
途端に立ち上がって歩道ギリギリまで身体を寄せた。
サラシも巻いていない黒の特攻服を靡かせて、いつ死んでもいいような目で真っ直ぐに前だけを見て突っ走るその人に、顔が高揚するのが分かった。
かっこいいっ!!!
やっぱりあの人が一番かっこいいよっ!!
思わず拍手でもしたくなるくらいのテンションのあがりように自分でも笑っちゃう。
今までの嫌な気持ちが一瞬で吹っ飛んだ。
「哲也さんのファン?」
馴れ馴れしい男に言われて目を大きく見開く。
「テツヤっていうの?あの人!」
あたしの言葉に苦笑い。
「いやあんたそれ、ヤバイから。あの人俺たちの頭だよ。あんたなんかが話しかけていいような人じゃないって」
「お願い!逢わせて!」
ガシッと腕を握るとすこぶる面倒くさそうな顔に変わった。
つい数秒前まであたしをナンパしていたくせに、コノヤロウ!
「あたし、ユヅキ!あんたは?」
「…亜嵐」
こうしてこの日、あたしは亜嵐という友達ができた。