▼ Halloween night1
あと一歩、あと一言が、言えない…。
「絶対やだ。やだっていうか、無理!断固無理!」
思いっきり顔をしかめた私を見て隣でゆきみがププッて笑う。
だって、無理だよ、そんな格好。
ドン・キホーテのハロウィングッズコーナーを陣取っている私達4人。
今週末岩ちゃんの家でハロウィンパーティーが行われるんだけど、全員本気の仮装で来い!って指令が出て、仕方なくその衣装をみんなで選びに来た。
クラスメイトの敬浩が手にしたのはフリフリのメイド服。
種類も何種類もあって選びがいはあるけど、私が着れそうな衣装はものの一つもない。
「いやいやこれ一番無難な奴だって!」
敬浩が不満気に私を見た。
どうやらこれを着せたいわけではないらしい。
手にしたのは……ぶっ倒れそうなその衣装は「ラムちゃん!これ最高レベル!」今時流行ってないハイレグなパンツと、胸元にはお気持ち程度の貝殻…。
有り得ない!
「却下だよ、却下!」
「えーなんで?直人くんもゆきみにこれ着せたいよね?」
「着せたいけど、見せたくはねぇな!」
「はいはい」
聞いた自分が馬鹿だったって感じに敬浩はポイポイと仮装衣装を手にとっては私に合わせていく。
「岩ちゃんが好きそうなのも俺が好きなのも対して変わんないと思うよ?」
「変わってくれなきゃ困る!岩ちゃんは敬浩みたいに下品じゃありません!」
「お前なぁ、男なんて考えてることみんな一緒!ね?直人くん!」
「そこ俺にフルんだ?まぁ、そこは否定しないけど!」
私達4人は同じクラスで仲がいい。
担任の眞木先生はめっちゃイケメンでダンディーで優しくて、男女問わず人気者。
高校2年になった私達はすぐにこのクラスに溶け込んで仲良くなった。
直人くんとゆきみは1年の時からの仲良しカップルで、そこに私と敬浩が入り込んだ。
プラスてっちゃんとあっちゃんもいるんだけど今日は二人ともバイトで夜に岩ちゃんも合流することになっていた。
岩ちゃんは、ダンス部の直人くん、てっちゃんの後輩で、一週間前に私に告白してくれた子。
返事はまだいいです!って言い逃げされたものの、密かに岩ちゃんが気になっていた私にはすごくすごく嬉しくて、だから決まってるんだけどなぁ、返事。
そんな私達が週末岩ちゃんの豪邸でハロウィンパーティーをすることになって、今に至る。
「岩ちゃんになら噛みつかれても本望だよね?むしろ!」
「え?…うん、そりゃ岩ちゃんにならね」
ゆきみが私だけに聞こえる声でそう言う。
手にしているのはサンタクロースの女子バージョン。
特段フリルがついてるわけでもなく至ってシンプルのそれ。
それぐらいなら着れる?
「ユヅキに似合いそう!2人でこれにする?」
「うん!これなら!」
「これ試着はできないよね?買うしかないか…」
手にとってレジに持って行くと、ゆきみのソレを直人くんが奪って行った。
そのままゆきみの前に入ってお金を支払う。
「直、いいって。それぐらい自分で買うよ」
「いいから。かっこつけたいお年頃なの、俺!」
「え、いつもかっこいいんだけど!」
至って普通に返したゆきみに、思った以上に直人くんが照れていて、何だか可笑しい。
単純に羨ましいな〜って思えるんだ、この二人。