▼ アバンチュールは君と!1
私の部署はトラブルが多い。
トラブルを起こすのは毎回同じ人。
毎年部署異動の時期はその人と同じ部署にならないかってそれだけが気がかりだった。
日頃の行い?
隠しきれない腹黒さ?
まんまとトラブルメーカーな人と同じ部署に配属された私は、本来なら少し落ち着くはずの夏季も、繁忙期並みの忙しさでバタついていた。
それを言い訳にはしたくないと思うものの、色んな後処理に追われていた私は、つい自分の仕事でもケアミスを連発してしまう失態を犯していた。
「はぁ〜凹む…。人のせいにしたくないけど、凹む〜」
社内カフェで同期のゆきみと涼んでいるこの時間が唯一ホッとできる瞬間だったりする。
「真面目だなぁユヅキは。頑張ってる証拠だって、ミスに凹むのは。うちの部署も定年の吉永さんがいなくなってから何か寂しくて元気でないよ〜」
私と同じようにテーブルに突っ伏すゆきみに「そうだよね〜」って相槌を打つ。
特に補充のなかったゆきみの部署も今いる社員に全て振り分けされたことで結局忙しい日々を送っているわけで。
「合コン行きたい!むしろ、イケメンと海行きたい!!一夏のアバンチュールどこ!?」
言いたい放題ゆきみと話していると後ろから笑い声が聞こえてきて。
振り返るとそこにいたのは上司の眞木さんと後輩の黒沢さん。
「アバンチュールはちょっと古いよね?」
「まぁ自分も使いますけど…」
「え、使うの?黒沢!」
「いや、そういう会話の中ではですよ?」
「そうなんだ。アバンチュールかどうかは分からないし、特段イケメンってわけでもないけど、今夜四人で飲みにでも行かない?ユヅキちゃんもゆきみちゃんもたまには息抜きしないとさ?」
眞木さんの言葉にぽわーんとした。
マヌケっ面をしている私の隣、ゆきみがクイッて肘で脇腹をつついた。
分かってる、ゆきみの言いたい事は。
だってあの眞木さんだもん。
私がずっと憧れ続けてきた。
でも他に彼女がいたから口にすることなんてなかったけど、最近聞いたんだ噂で。
―――彼女と別れたって。
ちょっとだけ期待したくなる。
そんなつもりさらさらないとしても。
「いんですか?眞木さん達の方がずっと忙しいのに」
「息抜きは大事だからね?俺らと飯行くの嫌?」
あーずるい、そんな言い方。
嫌なんて思うわけないし、言えない。
高揚する頬を隠すように首を横に振って笑ったんだ。
「嬉しいです!是非連れてってください!」
「よし、決まり。じゃあ6時に正面玄関で待ってる!」
頭を下げる私とゆきみは、眞木さん達が完全に見えなくなってから悲鳴のような声をあげた。
「やばいやばい、眞木さんかっこいい!ゆきみーどーしよう!!」
「やばいやばい、黒沢さんかっこいい!ユヅキーどーしよう!!」
同じ台詞を言ってブハッと2人で吹き出したものの…
「ゆきみは直人くんがいるでしょ!いいの?黒沢さんと飲むなんてバレたら妬かない?」
「ないない。直ちゃんヤキモチなんて妬いたことなーい。ゆきみは俺にベタ惚れだからって、自惚れてるの!」
「あっは、分かるなぁ、それ!でも間違ってないよね?」
「うん。何も間違ってない!直ちゃんにベタ惚れだよ。黒沢さんはお気に入りってだけ!」
「ぷっ、お気に入りと飲みに行くならやっぱり妬くんじゃない?」
「んーどーだろな。妬いてくれたらそれはそれで嬉しいかもしれないけど、今日は黒沢さんと楽しむ!そんなことより、ユヅキこそチャンスなんだから頑張りなよ?私協力するからさ!」
その日は定時まで全く仕事に身が入らなかった。