▼ Destiny1
私の住んでる街は東と南で大きく別れていた。
東に住む私達の界隈を仕切っているのがチームseven。
言っちゃえば今時時代錯誤な暴走族だ。
この街ででかい顔をするにはsevenの下につかなきゃ若者は危険で。
高校一年になった私には、残念なことに護衛と思われる人物がピッタリとくっついていた。
「買い物にまでついてくるなんて暇なの?」
「あほう、暇言うな!これも俺の任務や」
「任務って、あの2人そんなに偉いわけ?」
「当たり前や。俺らの頭やで?雲の上の存在や…」
「ふうん。まぁいいけど。試着するから入ってこないでね、健ちゃん」
「あー分かった」
たまの日曜日。
新しい服が欲しくて買い物に出掛ける私を護衛してくれるのは、学校まで同じにした山下健二郎くんで、チームsevenの一応幹部に当たる人とか。
「健二郎ああ見えて強いから安心しろ」
seven頭に言われたものの、どう見ても健ちゃんが強そうには見えない。
でもだから逆に居心地がいいのかもしれない。
見栄えも至って普通だから、こうして一緒に居ても一歩引いてしまうこともなかった。
ただの友達って感覚で私は健ちゃんと仲良くしている。
できれば健ちゃんにとってもそうであって欲しい。
買い物を終えて一息ついた時だった。
「すまん、便所行かせてや。どうにも今朝から腹の調子がよおない…」
青白い顔で健ちゃんが言う。
「大丈夫?体調悪いなら他の人に護衛させればいいのに、もう。ここにいるからゆっくりどうぞ」
ショッピングモールの椅子に座ってそう言う私の頭にポンッと手をつく。
「そんなん無理や。お前を守ることが俺の役目や。他の誰にもお前のこと任せられへんわ。すまん、いってくんな」
辛そうな顔を隠して健ちゃんはぴょこぴょこと歩いて行った。
これでも私、護衛術は死ぬ程叩き込まれたからいがいと大丈夫じゃないか?って思ってるよー!
って言葉はあえて飲み込んだ。
たまたま椅子の前に貼ってある掲示板に、この夏の花火大会のチラシが載っていて。
せめてもって思って浴衣を買ったことはあの2人には内緒にしておかなきゃって。
掲示板の横、大きな水槽があって涼し気に魚が泳いでいる。
何となく目を惹かれて私はそこに近づいた。
青い大きな水槽の中を海水魚が泳いでいて、水槽に顔がつきそうなくらい夢中で魚を追っていた。
あ、岩の影に隠れちゃう……
魚の奥、バチっと目が合ったのは一瞬でドキッとして私は身体を起こした。
水槽の対面側で同じ魚を追っていた人と目が合った。
ドキドキと胸が爆音をたてていて。
視線の先、黒髪を斜めに分け上げているその下、立派な眉と大きくて切れ長な瞳が真っ直ぐに私を捉えた。
白めな肌に赤みがかった唇。
目の下にある泣きぼくろが印象的。
目が合ってニコリと微笑む彼に、心が温かくなって自然と私にも笑みが零れた。
魚を忘れて彼を見つめる私に、同じように私を追ってくる彼の視線が心地よい。
なんだろうこのドキドキ…
この人、すごく綺麗。
綺麗な顔は見慣れている私でもドキドキする。
「オミー?」
「え、ああ。行くよ」
誰かに名前を呼ばれて顔をあげるその人は、私の方に歩いてきた。
水槽越しよりもかっこいい、この人。
ポンッて頭に手を乗せるとほんの少しこちらに近寄った。
「…可愛いね。名前は?」
「へ?」
可愛い、なんて言われたことないんだけど。
だけど目が離せなくて…
「………」
言葉が出てこない。
「オミ、何してんの?」
「あーはいはい」
連れが彼を呼びに来て、スッと私の頭にあった手が頬を通って離れていく。
「あの花火大会俺も行くから、お前も来いよ」
掲示板を指さしてそう言われて。
行けたらいいな、とは思ったけど。
「人多いし」
「大丈夫、絶対ぇ見つけだす!」
そう言って笑うと、ほんのりえくぼが見えて。
クシャっと私の髪を撫でた。
「またな」
マリンの香りを残して私の前からいなくなった彼。
去って行く後ろ姿を見て、胸の高鳴りがおさまらない。
「ユヅキ、すまんかったな。誰にも話しかけられてへん?」
「……うん」
初めて嘘をついた。
人に名前を聞かれても教えるな!って言われてきたからそれだけは守ったけど、あの人に次聞かれたら、守れないかもしれない……
初めての感情だった。