▼ やる気スイッチ1
高校生活最後のダンパ。
文化祭の後夜祭で恒例となったダンスパーティー。
毎年夏の終わりに後夜祭の申し込み合戦が始まる。
「今年で最後か…」
長かった夏休みも終わり、二学期の中間テストを間近に控えた私達は、夏休みボケでまだまだいつもの生活に馴染めずにいた。
それでも時間は当たり前に止まってはくれなくて。
頬杖をついて校庭を見下ろしながら呟いた私に、「なに哀愁漂わせてんだ?」隣の席の啓司がニヤっと笑いながら言った。
「だって最後だよ。もうこうしてみんなで馬鹿やるのも…」
「まぁそうだけど…」
「ダンパ…今年は出ようかな…」
強制じゃないから参加しない人もいて。
私は二年間不参加だった。
だって…
「え、お前出んの?」
「うん。最後ぐらい、思い出作りたい…」
「ふうん。誘ってやろうか?」
…それは、本心なんだろうか?
啓司とは仲良くさせて貰ってるから友達って感覚で。
背が高くて人懐っこい啓司は女子からもモテル。
ちょっとおバカなところも含めてモテル。
私も啓司のことは好きだけど…
「ユヅキちゃん聞いてよ!てっちゃんまたダンパ断ってんの!!」
同じグループのゆきみがうちのクラスのボス的存在である哲也を引き連れて教室に戻ってきた。
だるそうな顔で啓司の後ろの席に座る哲也は、その美形のせいでめちゃくちゃモテル。
金メッシュの入った髪を靡かせてグダーっと机に寝そべった。
「俺の勝手だろ、ゆきみ〜」
「そうだけど、いったい何人女泣かせたら気がすむの?」
「知らねぇ。勝手に泣いてるだけだろ…」
「うわ、聞いた!?今の発言!顔がちょっとかっこいいからって、てっちゃん中身は悪魔だよ!女の敵だ!」
わーわー喚くゆきみを、さも面倒そうな顔で見ている哲也は「黙らねぇとキスすんぞ?」…一言でゆきみを静めた。
大きく一歩下がって口を掌で隠すゆきみにクスリと微笑む私。
「卑猥!」
そう言って私の後ろに隠れるゆきみに呆れた笑みを浮かべる哲也。
「ダンパ、ゆきみは誰と出るの?」
「わたし…う〜ん…」
まぁ、知ってるけど。
ゆきみの片想いの相手は。
「どーせ直人だろ!」
啓司に言われてプウっと頬を膨らませるゆきみ。
「どーせってなに?別に誘われてないし今年も…」
「自分で誘えば?直人まだ空いてるって言ってたよ?」
哲也がそう言って。
「…がっついてないかな?女から誘うのって…」
「ゆきみが誘わなきゃ取られちゃうんじゃねぇか?直人だってモテルし…」
「啓ちゃん!もし直人くん取られちゃったらゆきみと出て!!!」
「…俺をキープする気?」
「だってぇ!」
てへって笑うゆきみにあきれ顔を飛ばす啓司。
でも次の瞬間その視線が私に飛んできて。
「んじゃゆきみと直人がうまくいったらユヅキ誘おうかな!」
啓司の言葉に哲也を含めた全員の視線が私を捕らえた。