SHORT U | ナノ

 愛を教えます1

この世に絶対はない。

絶対に近いことならいっぱいあるけど、俺は絶対敵わないと思っていたんだ―――――




「隆二くーん、おかわり」

「あーもう、飲みすぎっすよ!」


グラスをユヅキさんの腕から取り上げるとジロっと睨まれた。

酒飲めないくせに、なんでそんなに飲んでるんだよ。

ふわりとユヅキさんの前髪に触れると腫れぼったい目を閉じた。

カウンターに突っ伏してるその姿にふと浮かんだアキラさんの姿。

アキラさんが溺愛しているユヅキさんが今日に限って俺を誘ってきたんだ。


「ひどーい。女から酒取り上げるなんて、嫌なヤツ…」


完全に酔っ払ってるユヅキさんは、すでに呂律も回ってない程で。


「アキラさんと何かあったんですか?」


俺の言葉に閉じていた目を開けた。

その目は真っ赤で。

え、まさか…


「もういらないって」


コロンとユヅキさんはジャケットから銀色の鍵を出してカウンターに置いたんだ。

どっから見てもこれ、合鍵だよね?


「別れたんすか?」

「うん。もう1ヶ月も前にねー」

「は?そんな前に!?」

「うん。だから今フリーだよ私!フリー!隆二くぅん、助けて…」


ポロポロと涙を零すユヅキさん。

この人俺の気持ち知っててやってるんだろうか?


社内でも有名な仲良しカップルだったユヅキさんとアキラさん。

ここんとこアキラさんの昇進で少なからずすれ違ってるって噂がなかったわけじゃない。

けどまさか、本当に別れるなんて思ってもみなくて。

ゆくゆくは結婚するもんだって思ってたんだ。

だから俺の気持ちも報われることはないって。


「ユヅキさんあの…」

「うそ、冗談!ごめん、なんでもない。今のなし、忘れて!聞かなかったことにして!私もう帰るね!」


ガタッとカウンターに手をついて椅子から降りた。

でもすぐにガクンと足を崩して倒れそうになって、慌てて腰に手を回して支えた。


「大丈夫!?とにかく送ります。そんなフラフラで帰せないっす」


俺の言葉に俯いてグスッと涙を零した。

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