SHORT U | ナノ

 幸せの一歩1

高校三年、夏。

あと半年しかない高校生活も残りはバイト三昧で終わるのだろうか…。


この界隈は、今どき時代錯誤な暴走族が繁殖していて。

昔流行ったホットロードっていうヤンキー映画が大ヒットしたことで、そこに対する憧れなのか何なのか夜のファミレスは不良が多かった。


高一の時から始めたこのファミレスのウエイトレスも今じゃ慣れたもんで。

不良の相手もこなすあたしに、バイト仲間たちは族と関わりがあるんじゃないかって目で見られているだろう。



その原因の一つとして…



「ユヅキちゃん!!今日何時まで?」



通り過ぎようとしたあたしの腕をしっかり掴んでニッコリ微笑む彼、直人。

どうやらどこぞのJSBって族の三代目の頭をやっているとか。

全く怖くない人懐っこい笑顔であたしの腕をプラプラする直人は、あたしより二歳年下の一年生。

まだあどけない少年の顔して毎日のように絡んでくる。



「22時までだけど…」

「OK、んじゃそれまでいるな!帰り送ってくよ〜」

「いいよ、いつも悪いから」

「何言ってんの?俺が送りたいだけだよ。だってこの辺危険でいっぱいだし!ユヅキちゃんに何かあったら俺キレちゃうだろうし!」

「…じゃあお願いします…」



ペコっと頭を下げると何故か固まる直人。

それからふにゃ〜ってドラヤキみたいに口を開いて「やっべ。今のすげぇ可愛い」そう言うんだ。

そんなこと言われると、ドキドキする。

本当の本当は、あたしは既に直人に落ちている。

冷めたフリをしているのは、気持ちを表に出すのが恥ずかしいから…―――そんなくだらない理由だった。



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