▼ 粘り勝ち1
あれ?まだ誰か残ってる?
仕事を終えて帰ろうとする私の耳にふと聞こえた微かな音。
レッスンスタジオ前のドアが半開きになっていて、明かりのついてるそこを覗くと大きな鏡の前で1人踊っていたんだ―――哲也が。
ツアーで踊るソロダンスのタップの練習だった。
シューズを履いてトントン音を立てて踊っている哲也は真剣そのもので。
こんなに寒い季節だというのに全身びっしょりに汗をかいている。
「かっこいい…」
思わず盛れた心の声。
その瞬間、哲也の動きが止まってその視線が私を捉えた。
真剣だった表情に色が入って笑顔になる。
「ユヅキちゃんお疲れ!あー今俺に見とれてたでしょう?」
わざとらしくそう聞く哲也にクスって笑う。
いつもそうやって私達スタッフを笑わせてくれる哲也は本当に優しくていい人。
「まだ残ってたんですね哲也さん」
「うん!ユヅキちゃんが通りがかると思って待ってた!」
冗談だって分かってるけど、哲也に言われると本気にしたくなる。
「またまたそういう冗談を!ダメですよ、本気にしたらどーするんですか?」
私の言葉にニコニコしながら近づく哲也。
半開きのドアの間に突っ立っていた私の腕を引くと扉の中に入れてそこにトンっと手をついて私を閉じ込めた。
「壁ドン!やってみたくて!」
冗談でそう言う哲也なのに、目が離せないのは私の方で…
冗談でもいいから哲也と…なんて考えがないわけじゃない。
無言の私に気づいた哲也は微笑んでいた顔を真顔に変えて…
「クリスマス空いてる?」
いきなりそんな言葉を放った。
はえっ!?
く、クリスマスだとー!?
目を真ん丸く見開く私に対してちょっと余裕そうな哲也に心臓が一気にバクバクと高鳴っていくのがわかる。
「デートしてよ俺と!」
「哲也さん何言ってるんですか?」
「何って、デートに誘ってるだけ!気づいてないとは言わせないよ俺の気持ち…」
壁についた私の手にキュッと指を絡める哲也。
少し汗ばんだその手にまたドキっとする。
耳元に顔を寄せて小さく囁く。
「言ったでしょ、ユヅキちゃんが通りがかると思って待ってたって…」
…本当なの?
信じられない。
「アッ…」
不意に哲也が私の首筋にチュッと舌を絡めて。
うそ、動けない…
薄ら目を細める私の首から耳をその舌で淫らに舐めていく。