▼ 紅い痕1
「え…何、これ…?」
へ?
久々のオフ。
ジムから帰った俺を待っていた愛する彼女のユヅキ。
そんなユヅキが俺を見て思いっきり泣きそうな顔で睨んでいる。
さっぱり何のことなのか分からない俺はユヅキに近寄って「なに?」そう聞いた。
だけど近づく俺から一歩下がるユヅキ。
その身体全部でまるで俺を拒否しているようにしか見えない。
「ケンチ!その紅いの何っ!?」
「え、赤いの…?」
「そうよ、紅い痕ついてる、首に!!!」
赤い痕って…―――え、まさか。
俺は慌てて洗面台の鏡の前に立つ。
首元を大きく開けたジャージの端に見えるその紅い痕。
全く身に覚えのないこの痣に俺はすぐさま洗面台から出た。
壁にへばりつくユヅキにゆっくり近づくも、また一歩退かれた。
「ユヅキちゃん落ち着いて。これ何でもないから…」
「何でもないのに、何で紅いの?…浮気…?したの?」
「まさかまさか!浮気なんてできないよ俺。ユヅキのことしか好きじゃないもの!信じてよ…俺の可愛いユヅキちゃん」
そっと手を伸ばしてユヅキを捕まえようとするけど、クルリと反転してまさかの部屋に閉じこもってしまった。
おいおいマジでしないから俺、啓司や哲也じゃあるまいし…。
「ケンチ最低っ!!もう健二郎と浮気してやるんだからっ!!」
「な…やめろって、後輩に手出すの!」
「フンッ!じゃあ哲也!いつでも電話してってこの前LINE教えて貰ったから哲也っ!横須賀軍艦カレー食べに連れてってもらう!」
「いやいや俺が連れてくから!とにかく出てきて…」
トントンって部屋のドアを叩くけど、ボスッってドアに何かが投げつけられた音が返ってきた。
俺が送ったクマのぬいぐるみ辺りが投げられたんだと思うけど。
それから何を言っても無視され、ユヅキがこの部屋のドアを開けたのは俺が廊下に座って15分が過ぎた頃だった。