SHORT U | ナノ

 悪魔の微笑み5

「止まってんぞ」


後ろからそんな声がしてハッと我に返った。

頭の中は哲也くんの本命が誰なのか考えていたけど、もしかしたらうちの会社じゃないんだって…。

振り返った先にいたのは直人くんで。

そこで漸く直人くんとご飯行くことを思い出したんだった。


「あ、もう時間?」

「そうだけど、どうかした?」


私の隣の席の椅子を引いてそこに座る直人くん。

いつも私をからかってるその顔は今日に限って真剣。

今に限って優しくて…


「哲也なら、受付の女連れて歩いてたよ…」

「え…?」


やっぱりそうなんだ。

受付の子…若い子だよね、ああそっか。

同期の私なんかじゃなくて、若くて綺麗な子がやっぱり本命なんだ。


「直人くん、行こう」


パソコン画面を消してた立ち上がった私は直人くんの手を掴んで立たせた。

そんなに身長差のない私達、その距離は思った以上に近くて…


「哲也のお姫様じゃなくて、俺の彼女になってよユヅキ…」


場所も回りも何も気にしない、直人くんの直球が心に突き刺さった…―――












「あ、ちょっと待ってっ…」

「…え?無理…」

「お願い、もっとゆっくり…」

「…ああ、」

「ンッ…はぁっ…」

「大丈夫?」

「…う、たぶん。ゆっくりして…久しぶりだから…」

「了解、出来る限り頑張る!」


八重歯を見せて笑う直人くん越しに見える煌びやかな天井。

この空間に入るのも久々だったりするわけで。

あのままここに直行した私達は今に至る。

脱ぐと吃驚するくらい綺麗な直人くんの腹筋に驚いてる暇もないくらいに、ベッドに埋め込まれて私に甘い吐息を撒き散らす直人くん。

哲也くんのことは忘れて直人くんをギュっと抱き締めた。


「直人くん…」

「泣くなよ…」

「うん…」

「俺がユヅキの王子になるから…」


真っ赤な顔でそんな言葉をくれる直人くん。

柄じゃないって分かってるんだろうけど、王子様を待ってたお姫様気分だった私にあえて言ってくれたんだって…


「直人…」

「好きだよ、ユヅキ…」


キュってベッドの上、繋がっている指を絡ませて律動を再開した。

久しぶりの感覚に身体も心もついていけないかと思ったけど、いつもぶっきらぼうな直人くんが、思いのほか優しくて…だから全然痛くもなかったし、むしろ気持ちがよかった。

王子様は一人いれば十分だよね…




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