SHORT U | ナノ

 悪魔の微笑み2

「顔、ニヤけてんぞ!」


去り際、営業部の入口に席を構えている直人くんがたぶんだろうけど私に向かってそう言った。

ピタっと足を止めて顔を彼に向けると当たり前にこっちを見ていて。


「今何か言った?」


とりあえずそう聞いてみる。


「顔、ニヤけてんぞ!」


もう一度、全く同じ台詞を言われた。

直人くんのジェスチャー付きで。

ええ分かってますよ!

分かってますとも!

でも仕方ないじゃん、お姫様って言われたんだよ私…


「直人くんは王子様じゃないもんなぁ〜」

「は、おまっ!ちょっとここに来いっ!」


腕を伸ばして私を掴もうとするから慌ててピョンって一歩下がる。


「ほら、そんな凶暴な王子様なんていないもの!」

「百歩譲って哲也の王子は認めるけど、ユヅキはお姫様じゃないだろ…」

「なぁに?ヤキモチ〜?」


あえて屈んで直人くんの開いた足に猫の手みたいに腕を置いた。

一瞬目を大きくかっぴろげた後、「馬鹿か」フンって目を逸らされた。


「ほうほう、ヤキモチか片岡め!素直じゃない男はモテないぞ!」

「うるせぇよ、間に合ってるよ!」

「え、どこが?彼女いたの?」

「…い、ねぇけど…」

「じゃあ一緒じゃん私と〜。素直に言えば夜ご飯ぐらい付き合ってあげるよ?」


しゃがんで上目使いでそう言うとポカって頭を殴られた。

全然痛くない鉄拳で。


「仕方ねぇから誘ってやるよっ!どーせ誰も相手にしてくんないんだろ?」

「直人くんもね〜」

「今夜開けとけよ!」

「ちゃんと迎えに来てね?」

「…おう」

「うん!」


ニコって微笑むと、ほんのり直人くんも口端を緩めた。

まるで学生みたいなこの関係が、わりと好きだったりする。



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