▼ 悪魔の微笑み1
「ユヅキちゃんこれ50部コピーお願いできる?午後の会議で使いたくて」
ポンっと書類を目の前に差し出されて視線を向けるとニコっと微笑んでいる哲也くん。
ストライプのスーツをきれいに着こなしているその姿は言っちゃえば「美男」そのもの。
うちの会社でも1、2を争うイケメン社員で人気の哲也くんとは同期で、こうしてよく雑用を頼まれることも多かった。
「お昼ご飯で手を打つよ!」
書類を受け取った私の前髪をクシャっとして「のった!うまいとこ連れてってやる!」フワリと離れていく瞬間に柑橘系の爽やかな香りが漂った。
始業のベルが鳴って席についた私は今日やることを頭の中でまとめていた。
総務課の私は主に雑用云々が一日の仕事で。
各部署の社員のサポートにつくこともあるし、事務用品の発注、出張の宿取り、色んな雑用をかってでている。
こうしてコピーを頼まれることなんて一日に数えきれないほどあって、50部コピーを終えた私はそれを持って哲也くんのいる営業部に持って行った。
「はい、50部!」
「うお、サンキュー!」
そう言ってデスクに置いてあったアーモンドチョコの箱を私に差し出した。
「え?」
「お礼ねこれ」
「でもお礼はお昼って…」
「うん、でもユヅキちゃんチョコ好きでしょ?だからつい買いたくなっちゃって。俺甘いの食べないし、だからあげる!昼は昼でまた迎えに行くから大人しく待ってて」
椅子に座っている哲也くんとその横に突っ立っている私。
私を下から見つめ上げているその顔はいつもどおり綺麗。
ブランとした私の指をキュって一瞬握ってそんなこと言うから何ていうか…
「迎えに来てくれるの?」
「うん。お姫様は迎えに行かなきゃだろ」
「…哲也くんはじゃあ王子様…?」
「俺王子でもいい?」
離れる寸前でまたキュっと指を今度は両手で握り締める哲也くんにドキっとする。
上目使いがこんなに甘い男の人なんて哲也くんしかいないってくらいに綺麗で。
「………」
思わず見とれて何も言い返せない私に「ユヅキ?」…まさかの呼び捨て。
ゴクっと唾を飲み込む私に「ユヅキちゃん?」もう一度、いつもどおりな”ちゃん”づけで呼ばれた。
「あっ、ごめん!哲也くんかっこいいからちょっと見とれてて…本物の王子様かと思ったよ…もう。あ、じゃあ私戻るね!」
恥ずかしくて早口でそう言うとポンポンって哲也くんの大きな手が私の頭を撫でた。
なんだろ、哲也くんは分かってるんだよね、女がどーされたら嬉しいのか、喜ぶのか。
それにまんまとハマってる自分がいるんだけど、同期の特権ってことでいいよね。