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「吃驚した〜」
玄関で泣きだす私を笑いながら抱きしめてくれるナオト。
ポンポンって優しく背中を撫でてくれるこの手は私だけのもので。
「仕事うまいこといって、最終の新幹線取れちゃってね…だからこれはユヅキが俺に逢いたいって思ってるってことだな〜って…。大正解だね、俺!」
まるで子供みたいに褒めて!って顔でナオトが言うもんだから可笑しくて。
でもきっと私の願いが届いたんだって思うとやっぱりすごく嬉しくて。
「ううもう…ズルイ〜」
「逢いたかっただろ?」
私の腰に腕をかけてコツってオデコを合わせるナオト。
ナオトの香水が鼻についてドキっとする。
「うん。逢いたかった…」
「俺も…」
グイって腰の手を引き寄せられてナオトの唇が勢いよく重なった。
そのまま背中に回された腕で身体ごとナオトと密着して…
想いを確かめ合うように何度もキスをした―――
「ナオト…」
「語り継がれている童話も素敵だけど、俺もユヅキと一年に一回しか逢えないなんて考えらんねぇ。きっと何とかして彦星は織姫に逢いに行ってるんじゃねぇかな…」
髪を撫でながら私の肩を抱いてリビングに移動するナオト。
テーブルに乗せてあったご飯を見て「え」小さく声を出した。
「お前これどうしたの?」
「平成の彦星を信じて待ってたの」
私がそう言うと、やられた!って顔で笑うナオトがまた私をギュっと抱きしめた。
「明日休むか!!」
冗談でそう言うナオトは、約束通り私を最高に幸せにしてくれるんだって―――
曇り空でもきっと空の織姫と彦星も、逢えてるって。
時は平成。
平成の彦星達は今宵、織姫を幸せへと導いてくれる―――
*END*