SHORT U | ナノ

 日常に花束を5

「よし、充電完了!んじゃ行こう!じつは今日お店予約してんの。結構時間ギリギリ」


私の手を引いてそう言う哲也さん。

何か少し前に聞いたような台詞だけど、まさかあの二人もいたりして?


そんな私の考えは残念ながら外れていて。

ちょっとお洒落なレストランで美味しいディナーを楽しんだ。


「珈琲飲みにくる?」

「うん!行く」

「了解!」


そう言うと哲也さんは私を見てニコって微笑む。


「タクシー呼ぶからちょっと待ってな」

「うん」


そう言って持っていた鞄を持ち直す。

そんな私を見て哲也さんがキョトンとした顔でスッと私の手から鞄を取ったんだ。


「鞄持ってあげる」

「え?大丈夫…
「かわりにこっち持っててもらってもいい?」


差し出されたのは小さな箱。

これが何なのか分からない程ばかじゃない。

だってこれ、指輪…


「ちゃんと持ってられる?」


ほんの少し不安気に、八の字に眉毛を下げて聞くんだ。

これってプロポーズだよね…?

待ち行く人の足音が立ち止まっている私達をどんどん追い抜いていく。


「哲也さんこれ…」


震える手で黒くて小さな箱を見つめる。

開かれたそこにはシルバーに輝くダイヤモンドの散りばめられた指輪があって。


「ユヅキ」

「はい」

「受け取ってもらえる?」

「……はい」


いいの、私で?なんて愚問。

いいからこうしてくれたんだってそう思うけど。


「愛してる」

「哲也さん…」

「ずっと一緒に居てほしい俺と」

「………」

「結婚してください」


ずっと夢見ていた、その言葉。

でもまさか今日それを言われるなんて思いもしない。

哲也さんと付き合って1年。

いつかはそういう話も出るのかな?って思っていなかったわけじゃない。

何でもない今日っていう日を選んでくれた哲也さんは、ジッと私の言葉を待っている。


「はい。ずっと哲也さんと一緒に居たいです」

「言ったね?」


不安気な顔が一瞬で余裕の笑みに変わった。

滅多に人に不安を見せないであろう哲也さん。

ていうか、私以外の人前で不安気な顔なんて普段は一切見せることのない哲也さん。

私の前では少なからず素直な顔を見せてくれているんだって。

人気のモテル哲也さんだけど、その心は私だけのものだって、自信すらもてる。


「吃驚したけど、すごく嬉しい」

「ユヅキが嬉しいと俺も嬉しい」


優しい手が私の頬に触れてキュンっとする。

その手に自分の手を重ねると「ユヅキ」小さく名前を呼ばれて。


「タクシー乗ったらキスしてね」

「…えっ?」


腕を引っ張られて大通りでタクシーを拾うと、二人で後部座席に乗り込んだ。

哲也さんの家の側を伝えると、そのまま私に被さるようにしてキスが落ちてくる―――…



何てことないいつもの日常が、一瞬にして薔薇色に変わった。

哲也さん、一生離れないからね☆





*END*

Special Thanks Love NATSU
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