SHORT U | ナノ

 日常に花束を3

「おはようございます!」


そんな声と一緒にうちのフロア内に入り込む雑音。

この声…。

ゆきみの後ろに隠れるようにしていたけど、そんなゆきみの後ろから顔を出した隆二。


「久しぶり、ユヅキ!ゆきみさんもお久しぶりです」

「隆二くんまた宜しくね」

「こちらこそ!」


私の横で握手をしている二人から逃げたい…なんて思いながらもできるわけもなく。


「元気だった?」

「まぁまぁ」

「そっか。今日から宜しくね」

「うん。ユヅキがいれば安心!」


ニコって懐かしい隆二の笑顔が私を見つめてほんの一瞬あの頃がフラッシュバックしてく――――


「よう、今市!」

「あ、哲也さん!どうもご無沙汰してます!」


哲也さんの声にパッと握手しようとしていた手を離した。


「焦ってる、焦ってるよ、哲也さん」


聞こえた声は私の真後ろで。

直人くんが私の背中に寄りかかるようにクククって笑いながらそんな言葉。


「こら直人さん!」

「うわ、可愛い顔が台無しだよ」


スッと私から離れて哲也さんの背中をポンって叩くと「隆二、挨拶行くぞ!」隆二を連れて行ってくれた。

残されたゆきみと私と哲也さん。


「ちょっと給湯室〜」


気をきかせてゆきみがスタスタといなくなった。

いきなり静かになったここで、哲也さんがニコっと微笑む。


「おはよ、ユヅキ」

「おはよう哲也さん」

「今日飯行かない?」

「え?あ、うん」

「うん、じゃあまた後で」


クシャって哲也さんの大きな手が私の髪に触れる。

これたぶん哲也さんの癖なんだろうな…って思うけど、この仕草が私は好きだったりする。

スッと離れて自分のフロアに戻ろうとした哲也さんの手を思わず握った。


「ユヅキ?」

「焦ってくれたの?」

「え?」

「直人くんが言ってた」


イケメンだって人気者だって、私の恋人は哲也さんであって。

哲也さんが私を見て少し困ったように眉毛を下げた。


「困った子猫ちゃんだなぁ。今日一日仕事になんなくなるだろ」

「………」

「嫉妬する奴は嫌い?」

「哲也さんなら何でも嬉しい」

「こらこら、また煽る。今夜覚悟しとけよ!」


ポンって痛くないデコピンが私のオデコにヒットした。

哲也さんの愛が嬉しい。

大丈夫、隆二と同じ部署でも私と哲也さんの愛は崩れない。

そう強く思えた。


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