▼ 欲張り2
思わず生唾をゴクリと飲み込みたいのをグッと我慢してコクっと頷こうとした私に「うそ、ごめん…」直人の眉毛の下がった顔が届いた。
うそ…?
今心臓口から吐けそうだったけど…
涙目で直人を見つめると困った顔をしていて。
「ちょっと一回言ってみたかったんだよね、こーいう台詞。場所が場所だし…。これうちの鍵…」
「…な、なんだぁ〜もう…。今頷く気満々だったんだからぁ…もう…」
ちょっとだけムスっとした顔で直人を見る。
そんな私の頬を指でスッとなぞって「ごめんね、でも…」また真剣な顔で言うんだ。
「片岡邸でよければ…連れてっちゃうよ、ユヅキのこと…」
「…本当?」
「男に二言はない!」
「…行く。連れてって、片岡邸」
キュっと直人の手を強く握り返した。
「すいません、お会計」
そう言って直人は財布からカードを出して店員さんに渡す。
「俺の奢り」
「ありがとう、ご馳走様」
「元はしっかり取るから」
ニって八重歯を見せて笑う直人の背中にコツっておデコをつける。
後ろ手で私をしっかり掴んでいる直人に身体を密着させてこの一時を終えた。
「直人、手繋ぎたい!」
思いきってそんな言葉。
お互い可愛らしい学生とは程遠い年齢だけれど、恋に終わりはないって思いたい。
隣を歩いている直人は斜めからちょっと楽しそうに私にスッと左手を差し出した。
「何か…照れるな…」
意外にもそんなことを言う直人がちょっと予想外で可愛い。
「俺…ユヅキは隆二とかてっちゃんとかのこと好きなのかな?って思ってたことがあって…」
「…へ?」
「前ね、前…。てっちゃんと仲良いでしょ?」
「う〜ん。まぁ…」
それは直人のこと色々相談していたからだよ…なんて言葉は当たり前に飲みこんで。
まさかそんな風に思われていたなんて気づきもしないわけで。
「てっちゃんも満更じゃないしさぁ…。ほんっとう仲良いじゃん!」
…二回言った。
結構気にしてくれてたってことかな…?
何だか妙に嬉しくなる。
「でもそう思ってた時に言われたんだ、敬浩くんに。ユヅキに告白された?って…」
…敬浩。
何て言えばいいか分からなくて黙っている私に続けて直人が口を開く。
「ユヅキに告白された?って、おかしいよね。ユヅキが俺に告白しようとしているのか?って考えたら嬉しくって。満更でもないてっちゃんも、ユヅキに優しい隆二も、違うんだ!って。頭の中で一瞬で考えてさ。”まだされてねぇよ”って答えてたの俺!」
ハハって乾いた笑いと共に直人が私を見た。