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「はーい」
開口一番元気な声を出したのは、ナオトに罪悪感を与えない為。
仕事だったり人づきあいを大切にしているナオトだからこそ、私のことを疎かにしないでいてくれる人だって分かっているから。
ささやかながらこれぐらいの空元気は自然と身についていた。
【あは、元気だなぁ…マジ癒されるユヅキの声】
「でしょう!ナオトも電話だといつもよりちょっと低めだよね」
【そう?自分じゃ分かんないけど…】
「うん。電話のナオトの声も好き…」
【俺は?俺…】
「え?」
【声じゃなくて、俺の顔!】
「顔…ねぇ…―――」
無言になった私に【ちょっと!そこ考えないでよ!】慌てたナオトの声が可笑しくて、「冗談、顔もドストライク!」そう答えたら【俺もだよ】嬉しい言葉で返されて若干恥ずかしくなった。
小さなことでもすぐに幸せにしてくれるナオト…――やっぱり逢いたかったなぁ〜。
最後の一枚の短冊を見て、小さく微笑んだ。
「もうお仕事終わり?」
【ああ。すげぇマッハで終わらせてきたよ。早くユヅキの声聞く為に!】
「あはは、嬉しいなぁ。お疲れ様、ナオト」
【…うんサンキュー。ってごめん、今のすっげぇキュンってした…お前本当俺のこと幸せにする天才だな〜】
シミジミ言ってるようなナオトに、こっちまで嬉しくなる。
私の言葉でもナオトを幸せにしていられるんだって。
「ナオトにしか効かないみたいだけどね…」
【だな!え、つーか誰かに試したの?】
「まさか!言いませんこんな恥ずかしいこと、ナオト以外になんて」
【まぁいいけど。それよりやっぱ曇りだな、今日…】
「今外見てる?」
【うん、見てる】
「残念だったね。私短冊書いて準備してたのに〜」
【マジ?なんて書いたん?】
ナオトに聞かれてドキっとする。
いやこれさすがに読み上げるの勇気いるわ…。
可愛い学生カップルだったらまだしも、いい歳した大人カップルがこれ…
一瞬でこれを伝える自分を想像して一気に羞恥心が湧いてきた。
「だ、だめ。ちょっと恥ずかしくて言えないから、帰ってきたら勝手に読んで」
【え?なんで?今更何も恥ずかしいことなくね?俺とユヅキの間に…】
一体何を引きあいに出そうとしているのか、何となく想像できるんだけど。
「それとこれとは別です!」
【それ…ねぇ〜】
絶対電話口で笑ってる。
ニヤついてる!
そんな口調で言ったに違いない!
「もう…だから」
【それで…平成の織姫の願いを叶えてあげたいんだけど…。教えてよ…】
あ…スイッチ入った?
ナオトの空気がほんの少し変った気がして。
私は手にしていた短冊を仕方なく読み上げた。
「今夜もナオトに逢いたい…」