SHORT U | ナノ

 3

「はーい」


開口一番元気な声を出したのは、ナオトに罪悪感を与えない為。

仕事だったり人づきあいを大切にしているナオトだからこそ、私のことを疎かにしないでいてくれる人だって分かっているから。

ささやかながらこれぐらいの空元気は自然と身についていた。


【あは、元気だなぁ…マジ癒されるユヅキの声】

「でしょう!ナオトも電話だといつもよりちょっと低めだよね」

【そう?自分じゃ分かんないけど…】

「うん。電話のナオトの声も好き…」

【俺は?俺…】

「え?」

【声じゃなくて、俺の顔!】

「顔…ねぇ…―――」


無言になった私に【ちょっと!そこ考えないでよ!】慌てたナオトの声が可笑しくて、「冗談、顔もドストライク!」そう答えたら【俺もだよ】嬉しい言葉で返されて若干恥ずかしくなった。

小さなことでもすぐに幸せにしてくれるナオト…――やっぱり逢いたかったなぁ〜。

最後の一枚の短冊を見て、小さく微笑んだ。


「もうお仕事終わり?」

【ああ。すげぇマッハで終わらせてきたよ。早くユヅキの声聞く為に!】

「あはは、嬉しいなぁ。お疲れ様、ナオト」

【…うんサンキュー。ってごめん、今のすっげぇキュンってした…お前本当俺のこと幸せにする天才だな〜】


シミジミ言ってるようなナオトに、こっちまで嬉しくなる。

私の言葉でもナオトを幸せにしていられるんだって。


「ナオトにしか効かないみたいだけどね…」

【だな!え、つーか誰かに試したの?】

「まさか!言いませんこんな恥ずかしいこと、ナオト以外になんて」

【まぁいいけど。それよりやっぱ曇りだな、今日…】

「今外見てる?」

【うん、見てる】

「残念だったね。私短冊書いて準備してたのに〜」

【マジ?なんて書いたん?】


ナオトに聞かれてドキっとする。

いやこれさすがに読み上げるの勇気いるわ…。

可愛い学生カップルだったらまだしも、いい歳した大人カップルがこれ…

一瞬でこれを伝える自分を想像して一気に羞恥心が湧いてきた。


「だ、だめ。ちょっと恥ずかしくて言えないから、帰ってきたら勝手に読んで」

【え?なんで?今更何も恥ずかしいことなくね?俺とユヅキの間に…】


一体何を引きあいに出そうとしているのか、何となく想像できるんだけど。


「それとこれとは別です!」

【それ…ねぇ〜】


絶対電話口で笑ってる。

ニヤついてる!

そんな口調で言ったに違いない!


「もう…だから」

【それで…平成の織姫の願いを叶えてあげたいんだけど…。教えてよ…】


あ…スイッチ入った?

ナオトの空気がほんの少し変った気がして。

私は手にしていた短冊を仕方なく読み上げた。


「今夜もナオトに逢いたい…」


- 3 -
prev / next