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駅から臣と二人で歩く道。
月明かりに照らされてかっこいい臣の横顔。
一つ大きく息を吐きだして私は足を止めた。
小さな公園の途中で立ち止まった私を振り返る臣。
「あ、早かった?」
振り返った臣がそう言ってほんの少し微笑んでいる。
「臣、あのねっ…」
「うん?」
…言え、ユヅキ!
好きだよって一言…言うのよ、ユヅキ…――――「ユヅキ?」言いだせない私を心配そうに覗きこむ臣。
「ずっと後悔してたの…」
「へ?」
もう一度臣の腕を掴んだ私に、臣の足が少しだけ動く。
「本当はすごく嬉しかったの…臣に好きだって言われて…」
「…うん」
「死ぬほど嬉しかったのに、恥ずかしくて素直になれなくて…気がついたら嘘ついてた…敵わない人がいるって…」
「…哲也さんじゃねぇの?」
臣の問いかけに左右に首を振る。
「臣が好き…。すごくすごく、臣が大好き…」
…シーンとしてる。
何も言わない臣。
そうだよね、今さらだよね。
だってもう他に好きな子いるんだもんね。
その子と付き合うんだよね、きっと…―――
「嫌だよ、臣が他の子と付き合うのなんて…。私の方がずっと臣を好きだよっ!」
顔を上げたら目の前に臣の顔があって、真っ直ぐに私を見ている。
吸い込まれそうな大きな瞳と、伸びてきた前髪があがって奇麗なオデコが顔を出している。
「それ、ほんと?」
舌っ足らずな喋り方で緩く聞く臣は、どうしてか口端を緩くあげていて。
「ほんとです…」
この現実が急に恥ずかしくなって目を逸らした。
ドキドキって心臓が動いてて壊れそう。
でもせっかくゆきみさんに、哲也さんに貰った勇気…無駄になんてしない。
「俺さ、いるんだわ、すっげぇ好きな女。そいつさ、すっげぇ馬鹿みたいに強がりで意地っ張りで。何でそーいうこと言っちゃうわけ?っつーようなこと平気で言うの!けどそいつ、みんなが嫌がる仕事引き受けたり、率先して早く来たり…誰にも分かんないような所で努力してんだよね。いっつも目つき悪いのに、笑うとすっげぇ可愛くて…やっぱ好きなんだわ…って。諦めらんなかった…―――ユヅキのこと」
…ギュっと臣の手が私の手を強く握り返す。
どうしよう、嬉しくて泣きそう。
もうダメだって、玉砕覚悟で言ったのに…ズルイよ臣。
「泣いてるユヅキも可愛いよ」
「…臣…」
「でも俺、ユヅキの笑顔がやっぱすっげぇ好きだからさ…その笑顔、ずっと俺にくんない?」
「…うん」
「俺のユヅキになって…」
「臣っ!」
「わっ!」
ガバって臣に抱きついた。
小柄な私をすっぽり包み込んでくれる臣の温もり。
やっとやっと手に入った。