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「カンパーイ」
ガシャン!ジョッキが重なる音がしてとりあえずビールを空きっ腹に流し込んだ。
「うまっ」
思わずでてしまった声に隣の哲也さんがクスっと笑う。
「異動、明日からもう行くの?」
「はい。急すぎですよね。まぁでも受付女子達はさっぱりしてて”頑張って〜”って軽く言われました。週末に向けての自分磨きが忙しいんじゃないですか?」
ある意味受付って部署も女の園であり大奥だったのだから、きっとコールセンターの大奥でも通用するだろうって。
幹事をかってでた新社の岩ちゃんがどんどん食べ物を注文していくから、どんどんテーブルに上に食べ物が運ばれてくる。
お誕生日席には何故か直人さんが座っていて、その横を啓司さんと敬浩さんが囲んでいる。
ゆきみさんは岩ちゃんと一緒に色々注文をしていて、その後ろに私と同期の臣と隆二がいた。
それにしても、よくこんなイケメンばっか本当に揃えたな、健ちゃん。
健ちゃんは臣達と直人さん達の間で鍋の準備をしている。
「疲れたら俺んとこおいでよ。美味しい珈琲飲ませてあげる」
「本当ですか?」
なんて言っても私、ゆきみさんと一緒で紅茶派なんだけど。
でも哲也さんが淹れてくれた珈琲なら美味しいに違いないって思える。
自分で言うのも何だけど、先輩達から可愛がられてると思う。
イケメン集団を取り仕切ってる哲也さんや直人さんとゆきみさんが仲良くて、そんなゆきみさんに可愛いがってもらってるからこうしてみんなイケメン達も私に甘い。
その中でもやっぱり哲也さんは別格で。
憧れの先輩No.1だ。
「嬉しいです!哲也さんの淹れた珈琲なら何杯でもいけそうです」
「本当に飲みにおいでよ」
…哲也さんだったら、臣を忘れさせてくれるかな…
「はい…」
「約束」
スッと奇麗な指を私の顔の前に出して、そこに遠慮がちに小指を絡めたら「ユヅキ」小さく名前を呼ばれた。
「え?」
「付き合わない?俺と…」
「えっ!?」
「そんなに驚く?」
「いや、驚きますって!!なんで私っ!?」
「何でって、可愛いから…」
…臣に言われた「可愛い」とLinkしてしまう。
―――――ユヅキのことずっと可愛いなって思ってて…―――――
もう二度と聞けないその言葉。
ずっと私の耳に残っていて。
「ユヅキ…」
心配そうな哲也さんの声が聞こえるけど、どうしても顔をあげられない。
こんな惨めで馬鹿みたいな私、誰にも見られたくない…
「ごめんなさい、お手洗い行ってきます…」
バっと鞄の中からタオルだけを出して俯いたままその場から出て行った。
「ユヅキ〜?」
ゆきみさんの声が私を追ったけど、振り向けずにそのまま個室にもぐりこんだ。