▼ 面倒くさい奴*8
「やっと聞けたわ、その言葉。一生忘れへんからな。」
ポンポンって頭を優しく撫でた健ちゃんはそっと私の顔を覗き込む。涙の後を指で拭うとクスって笑う。
「今から俺の彼女やで。」
「うん。」
「お、素直やん!」
だって嬉しい。もう無理だって諦めてたから。何故か離れていこうとする健ちゃんの腕を掴んでその場に留まる。ジーッと見つめあげるとおもむろに目を逸らされた。
なんでぇ!?
「アホアホ、んな顔して見んなぁ、理性吹っ飛んでまうで!ここ会議室!」
「うん。」
「うんちゃう!んな笑顔しやがって。むっちゃ可愛いやん、アホ。」
ポカッて痛くない鉄拳の後、若干の困った顔で、それでも顔を寄せる健ちゃんに、そっと目を閉じたら、フライング気味に唇が触れた。
小さなリップ音の後、ゆっくり離れた健ちゃんに、「もっと、」そう言うと「ほんまに、」なんて言いながらもその後健ちゃんのキスは何秒も何分も、続いたんだ。
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「ほんまにあんたらええ加減にせえよ。」
後輩だけど一言言わせて貰います!って断りを入れてから陣くんがそう怒鳴ったから、二人で笑ってやった。
健ちゃんに用事のあった陣くんが探しに来なかったら今も会議室でずーっとイチャイチャしていたかったのにぃ、なんて内心思っていることは内緒。
さっきは許せないと思った陣くんも、うまくいった今は言っちゃえばキューピットなのかも、なんて思えた。ロングヘアーの子でも紹介してあげようか、なんてことすら思う。
危うく失敗に終わりそうだった私達の恋。最後の最後で素直になった私は、無事に最高の幸せを手に入れました。
「健ちゃんだいすき。」
腕にくるまってそう言うと、照れたように鼻をすすった。
*END*