▼ 面倒くさい奴*4
この質問をチャンスととるか、最悪ととるかで私の未来も変わる。
「...亜芽ちゃん彼氏いなかった?」
とりあえず気になっていることを聞いたら明らかに面倒くさそうな顔をする亜芽ちゃん。
「今マンネリで。」
髪の毛の先を指でクルクルもてあそびながら唇を尖らせる亜芽ちゃん。...マンネリだから健ちゃん?ちょっとかっこいいから健ちゃん?
「山下さん、歌も上手いし、グルメだし、奢ってくれるし、送ってくれるし、見かけによらず紳士だし、なんかいいですよねぇ。」
...なるほど、家まで送り届けたんだ。ふうん。無性に腹が立ってきた。ふぅ、と一つ大きく息を吐き出すと私は亜芽ちゃんに向かってニッコリと微笑んだんだ。
「健ちゃんだけど、肉なり焼くなりお好きにどうぞ。私には関係ないから。」
悔しくて言ったそばから後悔するって分かってるのに、くだらないヤキモチでまた私は自分の気持ちを隠して嘘をついたんだ。もう一生幸せになんてなれないかもしれない、なんて大袈裟な事を本気で思いながら。
「え、何してはるんですか?」
定時も過ぎて陣くんのそんな声にハッと顔を上げた。パソコン画面を見て苦笑いの陣くん。
「うーん、まぁ。」
「え、ユヅキさん、転職しはるんですか?」
思わず見てしまった転職サイト。だってなんか、このまま亜芽ちゃんと健ちゃんがうまくいったのなんて見たくないし。歳も歳だし、飛ぶなら今しかないって。
結局逃げ、なんだろうけど。
「ちょっと考えてるだけ。気にしないで。」
「いや気にしますよ、そんなん。ほんまにどうしたんですか?健二郎さんとうまくいってへんのですか?」
「別に付き合っちゃいないもん、あんなスケベと。」
亜芽ちゃんのインスタを思い出してついそんな言葉を口に出してしまった私の前、営業から戻った健ちゃんがフロアに入ってきたんだ。
やば、聞かれた?
「...男はみーんなスケベやろ。」
ポンと私の肩に触れた手に嫌悪感。亜芽ちゃんに触れた手で同じように私にも触れないでよ!
...気づくと私はその手を振り払っていて。さすがに陣くんも吃驚した顔を見せる。当の健ちゃんは不審な顔で私を見ていて...