SHORT U | ナノ

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水曜日、滋賀に移動したらたぶん島根公演までの日々はあっという間に過ぎてしまう。少しでも陸ちゃんと過ごせる時間があれば、なんて思ってしまう私は、久々に誕生日を楽しみたいと思っているのだろうか。

居残りしてるメンバーがいないか、ジムとリハ室を見回りすると、そこにピアノで弾き語っている陸ちゃんの姿があって足を止めた。

ツアーの曲にも入ってるATSUSHIさんの「Lost Moment」を目を閉じて歌っている陸ちゃんに思わず見とれる。

昔っから大好きな曲で、陸ちゃんの高音にピッタシと思っていたし、ツアー決定後のセトリ決めの時、迷うことなくこれを歌いたい…って言った陸ちゃんに、泣きそうなくらい内心喜んだのをまるで昨日のことのように覚えている。

優しいメロディーと陸ちゃんの綺麗な高音が混ざって、気づいたらポロっと涙が頬を伝っていた。

やだ私ってば…慌てて涙を拭うと、カタンってドアにぶつかった。だからこちらを振り返った陸ちゃんにまんまと見つかってしまう。



「マイコさん!?なにしてんの?」
「…あ、えっと見回りしてて。明日移動だから陸ちゃん早く帰りな…って言いたいんだけど、つい聞き入っちゃった…。」



ニコっと微笑んで陸ちゃんは不意に立ち上がると、私の所までやってきて、ふわりと手を掴んだ。



「ちょ、陸ちゃん!?」
「御嬢さん、一曲聴いてくれませんか?」



スッと片足を床につけて私を見上げる陸ちゃんにブって笑う。もう、ズルイんだから。



「…喜んで。」
「そうこなくっちゃ!」



私の手を離すと、陸ちゃんはまた椅子に座る。だから陸ちゃんが見える位置にたった私に、「愛を込めて…。」そう言うと、ポロンっと優しい音を奏でた。



I'm thinking of you今でも

この思い伝えきれず

今 君に届けよう

君をずっと愛してる

Oh yeah



それまで目を閉じて歌っていたのに、ゆっくりと私を見つめて歌う陸ちゃんに、震えそうなぐらい愛が溢れてしまいそうで…涙が止まらない。

そんな私をちょっと驚いたものの、優しく微笑んで歌う陸ちゃんが好きで、大好きで…どうしようもない。

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