▼ その声を聞かせて5
「今市さーん、これ荷物届いてました!」
「あ、ありがとう」
派遣さんから郵便物を受け取ってニッコリ微笑む隆二くん。先日私に告白してきた今や私の彼氏。名前だけの。
隆二くんと話せるのが嬉しいのかなかなか帰らなくて。熱心にパソコンを弄る隆二くんを見て感心している。
「すごいんですね、今市さん。あたしパソコン疎くてー」
「はは、これぐらい誰でもできるよ! 」
「えー出来ないですよー。今度教えて下さいよー」
「勿論。僕でよければ!」
「約束ですよー」
「いつでも!」
…騙されるよー!なんて内心悪態をつきながらも、本当の本音は隆二くんのことそんな恋する目で見ないでよー!なんて思っていたんだ。
矛盾している気持ちをどうにか切り替えなきゃって思うのにたかだか隆二くんと楽しそうに話していただけの派遣さんにヤキモチ妬いて仕事に集中出来ていなかったんだろうか…
「大阪担当って、一ノ瀬ちゃんだよね?これ在庫足りてないけど」
「嘘っ、か、確認します!」
慌ててパソコンで在庫照会を見るとものの見事に注文数と在庫の数が違っていて足りない。
今日発送なのに!?これからオンデマンドで刷っても日にちが足りない。
納期間に合わない、どうしよう…
「部長、申し訳ありません。私の確認ミスです…」
社内の空気が私のせいで悪化した。倉庫のおじちゃん達は「やっぱ一年に一回だとあるねーこんなこともー!」なんてあっけらかんと笑ってくれたけれど、こんなミス許されない。
入社したての新人なら頭下げて許されても、そこそこ年期の入ってる私がやるなんて。
「ごめん、俺も確認ミスだった。大阪、マナーに気取られて。とりあえず直で謝りに行くよ俺!」
担当営業の哲也さんも、私の担当県だけを抱えている訳じゃないから見逃すことだってある。
落ち込む私を励ますように哲也さんは、その日大阪に飛んでくれた。
夕方哲也さんから「大丈夫だったよ!」って電話で報告を受けた。オンデマンドも納期も間に合うようにって顔を利かせてくれて、少しだけ心が楽になった。
「ユヅキさん」
「隆二くん…」
ポンポンって私の頭を撫でる。何となく帰れなくて。散々部長と社長に謝ったし、とっくに許して貰ってるのは分かってる。ネチネチ言う人達でもないし、気持ち切り替えて頑張ればいいって。
でも、やっぱりここ最近の私の仕事に対する集中力の無さは、自分でも落ち込むぐらい無ったんだって。
「帰ろ、もう。もう俺達だけっすよ、ここに」
「隆二くん、待っててくれたの?」
「置いてなんて帰れないでしょ。大事な彼女のこと…。ほら一緒に帰ろう」
私に向かって手を差し出す隆二くんの大きな手。分かってる、全ての原因はこの人だって。
「隆二くん、ごめんね。私聞いちゃったのあの日。衝立の奥で話してる隆二くん達の話。彼女と別れて次の獲物は私だ…みたいに話してたでしょ…」
「え、あれは違う…」
「いいの。だから絶対に好きになんてならない!って、そう決めて隆二くんの誘いにのってたんだもの、私…」
「ユヅキさん、ほんとに違くて、」
慌てる隆二くんだけど、言い訳なんて今更だよ。