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…振り返ってゆっくり目閉じるの、あたし。
えええええ!!!
イエスなら…そう言ったくせに、直人は下駄箱についてた手をそっとひるがえすとその手をあたしの肩に乗せる。
そのまま直人にされるがままくるって向きを変えられたあたしを真っ直ぐ見つめる直人の瞳は真剣で。
パチッと無言で瞬きを繰り返すあたしに苦笑いで直人が続けた。
「目閉じろって…」
「………」
「何も言わなくていいから閉じろよ。俺これでもユヅキの気持ちぐらいわかってるつもりだぞ」
気づかれてたの、あたし。
カァーっと今更ながら一気に恥ずかしくなった。
「顔真っ赤」
ちょっと俯き加減で八重歯を見せて笑う直人に心臓バクバクだったのがほんの少し和らいだ気がした。
困ったように眉毛を下げるけど、あたしの気持ちを理解しているだろう直人に隠し事なんてきっと通用しない。
あたしの選択肢は最初からないんだって。
小さく息を吐き出して、それからゆっくりと瞳を閉じた。
「今から俺のもんだから、ユヅキ」
緩い直人の声がしてすぐに、ちょっと乾いた直人のぬるい唇が触れた―――――
白紙のラブレターは、生の台詞付きだってこの日直人があたしに教えてくれた。
高校2年の夏休み、楽しいことが沢山起きる予感。
*END*