SHORT U | ナノ

 その声を聞かせて4

そんな事があってから一週間。
たった一週間で隆二くんは私を3回ほど連れ出した。この繁忙期に2人で終電ギリギリまで飲んで毎度のことながら隆二くんは紳士的に私を家の前まで送り届けてくれた。

分かってる、これが遊びだってこと。隆二くんにとっては数ある武勇伝の中の一つに過ぎないと。だから私も落ちないように、落とされないようにって、優しい言葉をかけられても流していた。

そして今日も私の家の前でタクシーを降りる隆二くん。
運転手さんに少しだけ待ってて貰って私をアパートまで送り届ける。

時計の針は既に0時を越えていて4月1日、エイプリルフール。
告白されるなら今日なんじゃないか?って思った。
それなら嘘だよ、冗談だよ、って言えるから。
案の定、私の部屋の前、隆二くんがギュッと腕を掴む。そのまま彼の胸に抱き寄せられて―――――


「ユヅキさん、好きだよ…」


嘘の告白なんて御免だよ。私だって女だよ。こんなの、嬉しくもなんともない。
そう言って突き放せばいいのに、隆二くんの温もりが心地よくて、離せなくて…

好きになんて絶対ならない、そう決めていたのに私、好きになってるかもしれないって。
涙が溢れて止まらなくて…だから隆二くんが不安気に私を見ている。


「ユヅキさん?迷惑だった?」

「…ずるいよ、隆二くん。なんでこんな気持ちにさせるの?」


あまりに理不尽な私の言葉に隆二くんが目を泳がせた。どういう意味?って、顔で。
その顔のごとく「え、どういう意味?」掠れた隆二くんの声に何も返せなくて。
そのまま家に入ろうとする私を後ろからギュッと抱きしめる。


「離してよ」

「なんで泣いてんの?俺のこと、嫌い?」


耳を掠める唇は熱くてただドキドキしている自分がいる。この告白もハグも全部全部嘘だって分かってるのに、悔しい―――――


「…―――好きよ」


捨てられる?ヤり逃げ?ヤリ捨てか。それで私との行為がどうだったかまたボーイズトーク?赤裸々に色々言われてそーいう目で見られるの私?


「嬉しい。ね、こっち向いて?」


くるりと肩を押されて正面に隆二くんの顔。
やっぱり泣いてる私の涙を指で拭ってそこにチュッと小さなキス。慣れたもんだ。


「泣いてる理由は?」


言えない。策略全部知ってるなんて言えない。
そもそも知っててマジになってるなんてもっと言えない。


「分かんない…」


だからそう言うしかなくて。そんな私をギュッと強く抱きしめてくれた。


「ほんとは帰りたくないけど、無理やりする気もないし、ユヅキさんの気持ちが落ち着くまでは手出さない。だけど俺本気で好きです。俺のこと信じて、付き合ってください」


真剣な隆二くんの表情。悔しいけどかっこよくて嬉しくて。
イエスでもノーでもない複雑な気持ちのまま、それでもコクっと小さく頷いてる自分がそこにいた。
バカを見るって分かってて隆二くんを受け入れた馬鹿な私。


だけど、それから一週間経っても二週間たっても隆二くんからの別れの言葉なんてない。
そして、隆二くんに抱かれることもないなんて…。
- 241 -
prev / next