▼ その声を聞かせて3
「あ、美味しい」
「よかった。これもどうぞ」
てっきりお洒落なイタリアンかフレンチかと思ったら、隆二くんが連れてきたのは地元の?焼き鳥屋だった。
「自分ここに来る前圧接やってて、そん時からよく来てたんすよココ。あでも、女性連れて来るような場所じゃねぇか!」
「おいおい隆二、それはちょっと失礼なんじゃねぇ?」
カウンターの私と隆二くん。大将が隆二くんの言葉に突っ込むとペコッと頭を下げた。
「冗談っすよ!大将の飯ほど美味いもんないもん。俺毎日でも食いたいっすもん」
「まぁここんとこ毎日来てんもんな。また女にフラれたのかって思ったらこんな可愛い子連れてきて。安心したよ」
「あー大将、まだこれから口説くからさ、」
人差し指を口元で立てている隆二くんと目が合うと、ニッコリ微笑まれた。騙されてなるもんかって。
「大将、隆二くんは女の子よく連れてきてました?」
だからちょっと意地悪して聞いてやったんだ。
絶対に連れて来てるだろうし、隆二くんがどんな反応するのか?って。
大将は私の質問に首を傾げて視線を外す。
「ちょ、一ノ瀬さん!何聞いてんすか!」
「えだって、いーじゃん!ダメ?」
「いやダメじゃないけど…」
参ったな…って、髪をワシャワシャかく隆二くんを見てイシシって笑った。
大将を期待の目で見ると「それが1度もない。だからキミが本命かな?って」…ニコリと言われた。
…嘘!!
グビッとビールを一気飲みする隆二くんは、プハーってジョッキを置くとカチッと煙草に火をつけた。
「俺が口説くって、言ってんじゃん、大将さ!」
「わりぃ、わりぃ!はい、これ俺からの奢りな」
大将がホッケを私達の前に出してくれて。
隆二くんが諦めたように笑ったんだ。
「大将のホッケまじで美味いんで、食ってみて?」
綺麗に身を取ってくれて、お箸で摘んでそれを私に差し出した。口に入ると言われた通り美味しくて思わず親指を立てて微笑んだ。
そうやってちょっとほぐれた私達は、仕事の話から始まってプライベートな話もして、気づくと終電の時間が迫っていた。
つい色々忘れてしまっていたけど。
「隆二くんごめん、そろそろ行かなきゃ終電間に合わない!」
「うわ、ごめんなさい俺、つい楽しくて。あでも心配だから俺、家まで送ります。タクシー拾って…それとも、」
スッとカウンターの下、私の右手に隆二くんの左手が重なる。途端にドキンと胸が大きく音を立てた。
「うち来る?こっからすぐだよ」
頭の中で警戒音が鳴り響いている。
遊びの恋愛に付き合う気はない!行くな!って。
「…帰る」
スッと手を外すと、「じゃ送ります」なんてことないって顔で微笑んだんだ。