SHORT U | ナノ

 チョコより甘い時間4

「はい、ホットミルク。飲んで?あったまるから」


コトンと黒いマグカップがあたしの前に差し出された。

普段ナオト先生が使っているんじゃないかってぐらい、男っぽいそれにこんな状況なのに悔しながらドキドキする。

泣いちゃったあたしを抱き抱えてアパートに入れてくれたナオト先生。

そういえば女がいない。

空気読める彼女かよって。


「なんか、色々誤解してるんだろーなって思って…」


そう言う先生はスッとあたしに手の平を差し出した。


「とびっきりの愛は?くれるんじゃなかった?」


…ナオト先生?

今更何言ってんの?


「せんせ…だって沢山貰ってた、チョコ…」


あたしが答えると少しだけ余裕そうに先生が笑う。


「まぁ全部義理チョコだけど。本命っぽいのは全部貰わなかったぞ」

「…ほん、と?」

「約束したからなぁ…」


ジワリと涙が溢れそうで。

あたしの勘違い?


「でもさっきの、彼女でしょ?こんな日に一緒にいるなんて…」

「妹だよ、あれは。だからすぐに帰ったろ。うちにおふくろから預かったもんあって、それ取りに来ただけだよ。今頃男んとこでも行ってんだろ」

「い、妹?先生妹なんていたの?」

「一ノ瀬が知らないこと沢山あるわけ、」

「…なんだよかった…」


安心してホロリと頬を涙がつたう。

あたしを見て先生はちょっと得意気な顔で。

じゃああたしのチョコを待っててくれているのは、ほんと?

ナオト先生あたしのこと、好き?

大きなホールケーキをテーブルの上に出した。


「開けても?」

「はい」


そっと開けたそこ、「えっ!なんでっ!」…ちょっと壊れたハートのチョコレートケーキ。


「おてんばだな、一ノ瀬は」


笑いながらナオト先生がフォークでそれを一口食べた。


「お、味は満点だなこりゃ。ありがとう、美味しいよ」


優しく微笑むナオト先生に、胸の奥がキュンとする。

やっぱり諦められない。


「ナオト先生あたし泊まっていい?」


突拍子のないあたしの言葉に、先生もさすがに吃驚して珈琲をぶはっと吹き出した。
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