▼ チョコより甘い時間4
「はい、ホットミルク。飲んで?あったまるから」
コトンと黒いマグカップがあたしの前に差し出された。
普段ナオト先生が使っているんじゃないかってぐらい、男っぽいそれにこんな状況なのに悔しながらドキドキする。
泣いちゃったあたしを抱き抱えてアパートに入れてくれたナオト先生。
そういえば女がいない。
空気読める彼女かよって。
「なんか、色々誤解してるんだろーなって思って…」
そう言う先生はスッとあたしに手の平を差し出した。
「とびっきりの愛は?くれるんじゃなかった?」
…ナオト先生?
今更何言ってんの?
「せんせ…だって沢山貰ってた、チョコ…」
あたしが答えると少しだけ余裕そうに先生が笑う。
「まぁ全部義理チョコだけど。本命っぽいのは全部貰わなかったぞ」
「…ほん、と?」
「約束したからなぁ…」
ジワリと涙が溢れそうで。
あたしの勘違い?
「でもさっきの、彼女でしょ?こんな日に一緒にいるなんて…」
「妹だよ、あれは。だからすぐに帰ったろ。うちにおふくろから預かったもんあって、それ取りに来ただけだよ。今頃男んとこでも行ってんだろ」
「い、妹?先生妹なんていたの?」
「一ノ瀬が知らないこと沢山あるわけ、」
「…なんだよかった…」
安心してホロリと頬を涙がつたう。
あたしを見て先生はちょっと得意気な顔で。
じゃああたしのチョコを待っててくれているのは、ほんと?
ナオト先生あたしのこと、好き?
大きなホールケーキをテーブルの上に出した。
「開けても?」
「はい」
そっと開けたそこ、「えっ!なんでっ!」…ちょっと壊れたハートのチョコレートケーキ。
「おてんばだな、一ノ瀬は」
笑いながらナオト先生がフォークでそれを一口食べた。
「お、味は満点だなこりゃ。ありがとう、美味しいよ」
優しく微笑むナオト先生に、胸の奥がキュンとする。
やっぱり諦められない。
「ナオト先生あたし泊まっていい?」
突拍子のないあたしの言葉に、先生もさすがに吃驚して珈琲をぶはっと吹き出した。