▼ チョコより甘い時間2
「ね、先生!バレンタインチョコ、あたし以外の女から貰わないで?」
「え?いや俺貰えないでしょ、そもそも」
「そんなわけないでしょ!先生かっこいいし、みんな最後だからって、先生に渡すよ。だから貰わないで、あたしがとびっきりの愛、あげるから!ね?」
両手を顔の前で合わせて先生にお願いする。
もちろんの事ながらこの気持ちはあたしの片想いで、1度たりとも先生が本気にしてくれたことなんてない。
「一ノ瀬もの好きだよね。普通学校の先生に恋なんてしないよ?」
「普通ってなに?先生のものさしで図られてもあたし分かんない。誰にどう思われたってあたしのナオト先生への気持ちは変わらないよ!」
少しでも伝わればいいと、少しでも先生に響いてくれたら嬉しいと、そう願わずにはいられない。
「すぐに忘れるよ、俺のことなんて。…俺は忘れないだろうけど…」
少し寂しそうに微笑むナオト先生は、いとも簡単にあたしとの約束を破ったんだ。
それが大人の世界なんだって、まざまざと見せつけられた。
徹夜して作ったチョコレートケーキ。
ホールケーキを持って学校に行ったあたしに気づくことなく、朝っぱらから笑顔でチョコを受け取っているナオト先生に嫌気がさした。
「酷い…」
一言そう呟いてあたしは先生の横をスーッと通り過ぎた。
「一ノ瀬!おはよ!」
先生があたしに気づいて挨拶してくれるけど虚しくて。
気づいていないフリをした。
こんなくだらないヤキモチ、不利なだけなのに。
なんでそんな簡単なこともあたしは分からないんだろうか。
「はぁ…最低」
あたしも、先生も、最低。
元々縮まる距離じゃなかったとしても、最後ぐらい夢を見たかった。
少なからずナオト先生は、あたしのワガママにいつも付き合ってくれていた。
「生徒だからか、そりゃそーだよね」
せっかくのバレンタインデー。
あたしはありったけの想いで先生に「大好き!」と伝えるつもりだったのに。
たかだか18歳のガキに、奇跡なんて起こってはくれない現実を知った。
でも、先生のバレンタインは終わってなくて…どうしても帰る気になれないあたしは、そのまま先生のアパートの前で先生の帰りを待っていた。