▼ イニシャルH3
「ええっ!?直己に誘われたっ!?」
クリスマスイヴ。
お互い仕事が忙しくてプレゼントを買いに行く暇ないねぇーって言ってて、じゃあ二人で買いに行こう!ってことになって街に繰り出した私と直ちゃん。
車から降りてデパートの中に入ってすぐに直己くんの話題になったから素直にこの前のことを話した。
繋いだ手にキュッと力が込められる。
「…うん。私のこと、少し気にしてくれてたみたい…」
「危ねぇ、よかったー。直己にバレて!」
「え?」
「いやなんか俺結構もうみんなに言いたいんだけどさ、ユヅキと付き合ってること」
なんとなく困った顔の直ちゃん。
もしかして―――――
「え?直ちゃんもしかして、彼女いないって言ってるの?告白とかされちゃってる?」
私の問いかけに苦笑いを返される。
嫌な予感的中!?
「そうじゃないけど。その辺はまぁ、啓司さんがうまく言ってくれるんだけど、ほらこれ…」
スマホのストラップを私の前にチラつかせる。
そこには私の名前のイニシャルがついている。
「え?」
「さすがに彼女のイニシャルだっていうのはバレてるみたいで、だいたいの予想はつけられてて、だから社内で正直ユヅキんとこ行きづらいっていうか…。それに堂々としていたいのも本音。外野はどーでもいいけど、俺の気持ちはユヅキにしか向いてないってのは、みんなに伝えてもいいと思ってる…」
ちょっとだけ照れた表情でそう言う直ちゃんが単純に可愛い。
「大丈夫よ…」
そう言って直ちゃんの腕に絡みつく。
距離が縮まって至近距離で直ちゃんが私を見下ろす。
あ、今朝剃り残した鬚がちょびっとだけ生えている、新鮮…。
思わず見とれていたら「ん?」って顔を覗き込む直ちゃんにニコリと微笑んだ。
「だって私達、初雪一緒に見たでしょ?幸せは約束されてるよ!」
ちょうど一年前のクリスマス、納会の準備に追われてバタついてたいたあの日、休憩ルームで好きな人の話になってイニシャルNって伝えたんだよね。
その後直ちゃんと屋上で初雪を見て…抱きしめられて…キスしたこと―――まるで昨日のことのように覚えている。
あの日から私は、変わらず…うううん、よりいっそう直ちゃんのことを好きになっている。
知れば知るほど、傍にいればいるほど…―――想いは果てしなく積もっていくんだって。
「まぁ、そうだったな…」
「心配?」
「…そりゃね」
「どうして?」
チラリと見上げた私の頬にチュって小さなキスを落とすと「可愛いからに決まってんでしょ!」…嬉しい言葉をくれる。
その瞬間ギューって直ちゃんの腕に巻きついて私も小さく頬っぺたにキスをした。
自分がした時は得意気な顔をした癖に、お返しのキスに何故か真っ赤になる直ちゃん。
もしかして、不意打ちに弱いの!?
「こら、ここ外よ」
なんてオネエ言葉になってて。
完全に照れ隠しなのがまた可愛い。
「いいじゃん。誰も見てないよ。見られてもいい…」
「んじゃ会社でもユヅキにキスしちゃお」
「いいよ」
「…待った。キスキス言ってるからマジでしたくなる。ちょっと落ち着かせて…」
「え、反応した?」
チラリと直ちゃんの下半身に目を向けると、身体ごと逸らされた。
「してねい…」
「噛んだ!!」
大きく深呼吸を繰り返す直ちゃんは、ものの数秒で私に向き直ると…「夜覚えてろよ!」そう言って胸にソフトタッチをした。