▼ 1ミリのキス3
初めて顔を出すそこ、海を背に集まる暴走族たち。
この日の為に!って、特攻服を作りたいって相談したら全く相手にされなかった。
ズルいよ亜嵐は着てるくせに。
あたしだって特攻服着ててっちゃんのバイクの後ろに乗りたいよ。
「せめてサラシでも巻くかな?」
車を鏡に特攻服を真似て長タオルを肩にかけていたら「よせよ、似合わねぇ」…クスリと笑われたんだ。
…え?
バッて振り返るとそこにいたのはテツヤ。
亜嵐のチームを牛耳ってる頂点にいるテツヤ。
あたしはこの人のことがもっと知りたい。
上から下まで舐めるように見た後、「確かに直人の言う通りだな、タイプじゃねぇ」…動けない。
ナオト以上のオーラを持ってるテツヤにあたしは釘付けになった。
「名前は?」
「…ユヅキ」
「後ろ、乗せてやろうか?」
「え?」
「それとも、亜嵐の後ろに乗る?」
「てっちゃんがいいっ!てっちゃんの後ろに乗りたい!」
腕を掴むと、視線がギロっと降りてきて、「ごっ、ごめんなさいっ」スッと離した。
そんなあたしを見てクククククって笑うテツヤから1秒たりとも目が離せなくて。
「んじゃ乗せてやる」
そう言うとあたしを軽々抱き上げて、憧れの後部座席にストッと乗せてくれた。
すぐに前にテツヤが座ってエンジンをかける。
「お前それじゃ落ちんぞ?もっと腹に手回せよ。抱きつかねぇと振り落とされっぞ」
グイッてテツヤに腕を引っぱられてテツヤの背中を強烈に感じる。
薄っぺらい特攻服の下、想像以上についてる腹筋にますますドキドキした。
みんながあたしを誰?って顔で見てる。
なんなら亜嵐はここ一ってぐらい吃驚した顔であたし達を見ているけど、そのすぐ横でナオトだけは面白ろ可笑しいって顔で笑っていた。
みんなに見送られて走り出すバイク。
か、か、風がすげぇよ、おい!
身体ぶっ飛びそうなのに、すごい楽しくて気持ちよくて、てっちゃんにギュウギュウ抱きついたんだ。
「気持ちい―――!!」
叫ぶあたしをバカ笑いするてっちゃん。
ヤバイ、あたし今めっちゃ幸せ!
憧れの後部座席での暴走は、ものの15分程度で終わった。
埠頭にバイクを停めたてっちゃんは、肩にかけていた特攻服を脱ぐとあたしの肩にかけてくれる。
「いいの?」
「いいよ」
「嬉しい!かっこいいー写メ撮りたい写メ!てっちゃん一緒に撮りたい!」
ポケットからスマホを取り出してインカメラにすると、ポチッと動画に変えるてっちゃん。
えっ!?って思った瞬間、ふわりとあたしの視界が暗くなった。
腰に腕が回されて石垣を背に触れたてっちゃんの唇は、最高に冷たかった。