▼ 1ミリのキス2
「あのなぁ、毎日毎日待つなよ!危ねぇだろ!?」
「大丈夫だって!あたしに声かけてきたの亜嵐だけだもん!あたし可愛くないしモテないし!」
「そーいう問題じゃねぇの。男なんて女なら誰でもいんだよ。…たく。暴走終わったら送るから店ん中入ってろよ」
「やだやだやーだ。いつてっちゃんが来るか分かんないもんっ!」
「今日は来ねぇよ。哲也さん不参加だ」
「は?なんで?なんでいないの?ウソでしょ?」
「ほんとだよ」
亜嵐の言葉に顔を思いっきりしかめた。
せっかく逢えると思ってたのに、最悪。
横にあったゴミ箱をドカッと蹴っ飛ばすと、車が一台コンビニに入ってきた。
真っ黒のメルセデス・ベンツ。
なにこのかっこいい高級車!
静かに停ると助手席のドアが開いて女が出てきた。
続く後部座席のドアも開いて思わず中を覗く。
「あ、てっちゃん!」
うっかり出ちゃった声に、亜嵐がパコンとあたしを思いっきり叩いた。
痛い、涙出る!
マジありえない!
亜嵐を睨んだけど、逆に物凄い形相で睨まれて、すぐにその訳が分かった。
「え、知り合い?」
女があたしを見ていて。
開いたドアから出てきたチビが中のてっちゃんを見ている。
次の瞬間、てっちゃんの視線があたしをとらえる。
刺すようなその目つきに、身体が硬直したのが分かる。
なにこれ。
視線だけで動けない…
ジッとあたしを見たてっちゃんは、そのまますぐに目を逸らして一言「知らねぇよ」そう言ったんだ。
あたしのこと、見た!
「亜嵐、その子誰?」
女に話しかけられてビクッと肩を震わせる亜嵐。
でも姿勢を正したのは女の肩に腕をかけて出てきたがに股のチビの方っぽくて。
「あの、こいつはその…俺の女です」
「はあー!?」
大声出すあたしをまた亜嵐がどついた。
「いいから黙ってろ、言う事聞け!」
肩を抱かれて耳元でそんな言葉。
なんでてっちゃんに誤解されるようなことしなきゃなんないのよっ!!
「へえ亜嵐の女ねぇ」
後ろのがに股チビに顎をクイッとされて顔が近づく。
「哲也のタイプじゃねぇな、こいつ」
まるで分かったような言い方に心臓がドクンと脈打つ。
こいつ、怖ええ。
なんていうか、纏ってるオーラが亜嵐とは大違い。
この人も、上の方の人?
「あの直人さん、次の走り、こいつ連れてってもいいっすか?」
亜嵐の言葉にあたしは目をランランとさせる。
ナオト頼むよ、イエスって言って!
「ゆきみどーする?亜嵐の女だって」
「危ないからなぁ次の走り。亜嵐大丈夫?女乗せるならいつものコースだよ?」
「勿論っす」
「じゃあいいけど。女の子はなるべく車乗ってね?」
ゆきみがあたしに向かってそう言うと、ナオトと二人でコンビニの中に入って行った。
ハァーって息を吐き出してそこにズルズル項垂れる亜嵐。
こんなに緊張している亜嵐は初めてで。
よしよしって髪の毛を撫でると、バサッて腕を払われた。
「お前、俺じゃなかったら今頃ヤラれてんぞ」
ジロリと睨まれたって、怖くないもーん。
あたしは嫌がる亜嵐に、それでも何度もなく髪をくしゃくしゃに撫でたんだ。