▼ Charge3
だけど…トイレに入って鏡に映った自分を見て驚いた。
「誰、これ…」
よかれと思ってやったのに、あたしの原型すらなくなっていた。
こんなあたし、誰も好きになってなんてくれないよね。
今まで散々頑張ってきたからか、本当の自分を見失っているようで、あたしはその場からずっと動けなかったんだ。
亜嵐を好きになってから、一週間以上亜嵐に逢いに行かなかったことなんて今まで一度もなかった。
逢いたいのに、逢うのが怖いなんておかしいよね。
相変わらず賑わっているダンス部。
どうやらもうすぐ大会があるのか、みんなフリーダンスの振りつけに必死だって声だけは耳に入っていた。
あたしが初めて亜嵐を見たのもフリーダンスの練習している時だったよね…懐かしい。
やっぱりどうしても一目見たくて、練習しているであろう裏庭を覗いた。
当たり前にそこにいた亜嵐に見とれる。
ギャラリーには沢山の女子。
亜嵐が派手にパフォーマンスする度にあがる歓声で、あたしの声なんて当たり前に亜嵐には届かない。
「ねぇ亜嵐くん、一緒に帰らない?」
「え?」
1年だか2年だかも分からないけど一週間前のあたしにみたいに積極的に亜嵐を誘い出す姿を見て泣きそうになる。
自分の立ち位置がこんなにも簡単に変わってしまうんだって。
みんな3年のあたしがいなくなればいいってきっとそう思っていたのかもしれない。
聞きたくないし、知りたくない。
あたしのいない所で亜嵐が何を答えるのか―――「ごめん、そういうのはちょっと…」少しだけ寂しそうな亜嵐の声に、思わず顔を上げる。
勿論ながらあたしには気づいてもいない亜嵐。
ドクンと心臓がうごめいて少しの期待と不安の中、次の言葉を待つ。
「彼女いるの?」
「いないよ彼女は…」
「好きな人いるの?」
「…まぁ、いる。だからごめんね…」
「待って!誰?3年の先輩?」
…あたしのこと、だよね…。
ドキドキ心臓がこれでもかってぐらい脈打っていて…
「ごめんね。教えらんない」
「そう、だよね…。分かった」
トンって踵を鳴らして女子が出てくる。
壁に寄りかかってるあたしを見て、泣きそうな顔して走って行っちゃった。
え、誰!?
亜嵐の好きな女って、誰っ!?
誰もいなくなったことを確認して、あたしは一週間ぶりに亜嵐の前に顔を出した。