SHORT U | ナノ

 内線131C

「あれ?直人さん。珍しいっすね、こっちくんの」



総務の隣は広報で。

広報の隆二くんのそんな声がしたけど無視無視。

直人がどんな顔しているのかなんて背中向けていても分かる。




「ん〜ユヅキちゃんに用あって…」




…―――え?言っちゃうの?

振り返ろうとしたらポンって肩に手が乗っかる。




「な、片岡くんどうしたの?」

「いやぁ、見つけらんなくってさ。この前お願いしてた原稿の資料。ちょっと一緒に図書室来て貰えないかな?今忙しい?」




チラリとPCを覗く直人。

勿論仕事中の私はデータ入力の真っ最中で。




「…いいけど、この前の原稿って何だっけ?」

「忘れてるの?もう…――次の休みの旅行の計画だよ、俺達の!」

「なおっ…」




フニャって手で口を抑えられる。

パチってウインクをして私の腰に腕をかける直人。

ヤバイってこんなの。

でもラッキーなことに聞いていたっぽいのは隆二くんだけで。

目をまん丸にして私達を見ている。




「あははははは、健ちゃん言ってたのこれか!」




なんて高々と笑い声。




「なに?健ちゃん何か言ってたの?」

「それが。気にいってた子、みーんな秘密の恋愛してるって…」




隆二くんの言葉に「え、それユヅキのこと?」完全に目の座った直人。

ムスっと眉間にしわを寄せている。

思いっきり呼び捨てしちゃってるけど、今さら隠しても意味もない。

きっと隆二くんは内緒のままでいてくれるって思うし…




「はは、健ちゃんの気持ちちょっと分かります。直人さんかぁ〜ユヅキさんの相手…。羨ましいっすよ、直人さんが!」

「ダメだから。健二郎にも言っとけよ、隆二!行くぞ、ユヅキ」




ムスっとした直人に腕を引かれて図書室に入った。

なんか気分いい。

朝海ちゃんに、直人がモテてるって聞いてモヤっとしてたけど。




「ふふふ、妬いた?」

「…おう」

「大丈夫。私は隆二くんよりも健ちゃんよりも、直が好きだよ」



図書室の大きな棚に隠れて誰からも見えない場所に行きつくと、おもむろに私を棚に追い込む直人。

いつ誰が入ってくるか分からないこの場所で、何度かこうして直人とふざけてイチャイチャしてきた。

仕事第一人間の直人もたまに息抜きでこうしてここに誘う人だって分かった時は嬉しかった。




「マジでユヅキのこと狙ってる奴まだいそうで腹立つ…」

「直だってモテてた!って、朝海ちゃんに聞いたよー」



私の言葉にキョトンとした目で見ていて、でもすぐにエロ目で笑う。




「そんでユヅキも妬いたの?だからここ来なかったわけ?」

「そーです。私達は朝海ちゃんと土田くんと違って部署も別だから分からないことのが多いでしょ。それを朝海ちゃんが、逐一報告してくれるの!」

「……あの女…。までも俺やましいことねぇし。早く発表してやりてぇわ」

「……発表?」

「俺達の結婚のな!」




えっ!?

なにそれ?って私の言葉は直人のキスで埋められた。

一度唇が触れると全部ふっ飛ぶ直人の甘いキス。

脳が溶けそうなくらい熱くて甘いこのキスに夢中になって、気の済むまでそうしていた。




部署に戻ると健ちゃんが私の椅子に座っていて。




「健ちゃん?どした?」

「隆二に聞いてん。俺も彼女欲しい…」




ふわりと健ちゃんに手を握られた瞬間、クスッて隆二くんの笑う声が聞こえて、そのすぐあと私の内線が鳴ったんだ。

内線番号131から……






*END*
- 212 -
prev / next