SHORT U | ナノ

 内線131B

程よい温度と安定した寝息。

呼吸と共にほんのり動く心臓とのバランスが心地よい。

朝の匂いがして薄らと目を開けると、後ろから巻きつかれた腕を上から触る。




「ん」




まだ起きないって無意識だろうか?

足が私の足の間に絡まった。




「なお…朝だよ?」

「ん〜無理…」

「シャワー浴びるから離して…」

「無理…」




ギュウってわざとなのか私をホールドして離さない。




「朝ご飯食べれなくなるよ〜?」

「いいよ、お前食うから」

「えっ?」




ふわりと私の腰に腕をかけてグルっと回転する。

天井と私の間に挟まれた直人は今の今まで寝ていたはずなのに私を見て嬉しそうに笑っていて。




「だって昨日帰り遅かったから抱けなかったんだもん。ほらここ、触って…」




私の手を掴んでそこに宛がうけど「これは朝特有の生理現象でしょ?」…思わず苦笑い。

ほんのり硬くなっているそこを掴むとハァって吐息が漏れた。




「違うよ。ユヅキが恋しい証拠。俺一人で寂しかったんだから?ちゃんと慰めて?」

「もう、甘えん坊なんだからぁ…」




私の言葉にニってどらやき型の口を開くと、ふわりと体重を落とした。




―――直人と同棲を始めて半年。

社内じゃとてもじゃないけどバレちゃいけないって警戒していたからか、その反動で一緒に住むことにした。

会社に一歩入れば私達はただの同期。

そう、直人がどんなにモテていても、そこに口を出すなんてできやしないんだ。



直人専用フォルダの下に朝海ちゃん専用フォルダを作成した。




【ユヅキさん大変!彼氏がモテてますよ!】




直人と同じ部署の朝海ちゃんから逐一色んな報告が来るようになった。

女の目から見なきゃ分からないことが沢山ある世の中。

直人がモテないと思っていたわけではないけど、もしかしたら物凄い鈍感なのかもしれないって…




【ダーリン、時間なくて髪の毛半乾きだったから風邪引いたらどうする?看病してくれる?】

【―――――】




ちきしょう、無視かよ。

内心イラっとしながらもPC画面を見つめて軽快に文字を入力していく。




【今日の夜ご飯は…@近所のラーメン屋Aダーリンの奢りでイタリアンBハニーの手料理フルコース付き…さて、どれにしますか?】

【――――――】




やっぱり返信がこなくて。

どうしようと迷ったあげく、受話器をあげた。

内線131を押すと【はい片岡です】いつもの直人の低い声が響く。




「総務の一ノ瀬ですお疲れ様です。メール見ていただけましたか?」

【見ました見ました、勿論フルコースで!】

「なんの?」

【えっ?】

「なんのフルコースご希望ですか?」

【なんのって…ああ、ちょうど今探し物してまして。図書室行くんでそこでお伝えしますね!ではすぐに!】




一方的に電話を切られてポカーンとした。

すぐに朝海ちゃんからメールが来て何でか爆笑している。




【図書室も穴場なんですね!ご馳走様です☆】





それで分かった。

直人が何を考えていたのか。

むっすー。

悔しいから図書室になんて行ってやんない。



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