SHORT U | ナノ

 内線131A

営業部と書かれたフロアに一歩踏み込むとそこは雑音が飛び交っている。

見渡す限りデスクが連なっていて…

視線の先にいた朝海ちゃんが焦った顔で近寄って来た。




「ユヅキさん!」

「大丈夫、言わないから。確かめに来ただけだって」

「確かめる?」

「朝海ちゃん顔に出てるからだいたい分かるって!」

「えええ、やっぱり!健ちゃんにも言われました…」

「そうなの?だっから健ちゃん変な顔してたのかな〜」




目的の場所まで歩くと、手前にいた彼がほんの一瞬私を見た。

だからあえて無視して通り過ぎる。




「土田くん、コピー室に忘れ物!はい」

「お、サンキュー」





すんなり受け取った朝海ちゃんの彼疑惑、土田は私達の同期。

それから真っ直ぐ私を見て「メール悪かったな」なんてことないって顔でそう言うんだ。

ほうほう私を巻きこんだな、土田め!

分かったよ、こうなったら私も守ってあげようじゃないか、朝海ちゃんのこと。


だけど…――――





「直人。この資料集められる?図書室でちょっと見て来てくんないかな?」





…あれれ。

直人の返事を待つ前に振り返った土田がニッコリ笑って言ったんだ。




「ユヅキちゃん指輪、新作?綺麗だね…」




直人とお揃いのペアリング。

さり気なく資料で指を隠した直人だけど、眉毛を下げて私を見ている。


隠し通せない…って、直人の顔に大きく書いてあって私は苦笑いで「鋭いね」って答えた。








―――――――――――




「いつ土田に捕まったのよ?もう!」




所変わってハル邸。

同期の直人と同棲中のうちにはさすがに呼べなく、一人暮らしのハルの家が毎回定例会の会場となっていた。

私の言葉に何も知らないハルが「えっ?」って一人吃驚していて。




「えっと一ヶ月前です〜。やだな〜顔に出ちゃってますかぁ〜あたし〜」




目の前で惚気そうな朝海ちゃんに枝豆をピュンっと飛ばしてやった。

キャってよけて「ユヅキさん酷〜い」って言うけど、その顔は幸せそうで。




「え、朝海さん、土田さんと付き合ってたんですか?」

「はい!てっちゃんかっこいいから誰かに取られる前に…って!」




確かに土田くんうちの社内でも密かに人気がある。

何と言ってもあの顔。

美形、ザ、美形。

綺麗ってもんじゃない。

憧れる女子は多いよねそりゃ。

社恋が禁止じゃなかったとしたら確実にハーレムだろうって。

何となく朝海ちゃんが土田くんに憧れているのは気づいていたけど、まさか付き合ってるとは思ってなかったな〜。




「え、うち恋愛禁止ですよね?」




今だ状況を掴めていないハルがキョロキョロ私と朝海ちゃんを交互に見ながら聞く。

基本真面目なこの子には難しいかもしれない。

だから教えてあげようと思う。





「真面目にそれ守ってんのなんてハルぐらいよ」

「ええええっ!?そそそそうなんですか?」

「気になる男ぐらいいるでしょ?ハルだって」




私の言葉にほんの一瞬目を泳がせる。




「吐け―――!!誰だ―――!!!」

「キャアアアアア―――!!!」




そんな女子だけの大告白大会は夜中まで続いた。
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