SHORT U | ナノ

 やる気スイッチ6

「哲也!話があるっ!今日は逃がさないから!!!」



走って哲也の前まで行った私をちょっと驚いた顔で見ていて。



「どうしたの?」



優しい声に大きく深呼吸をした。



「あのねっ…」

「ダンパ?俺と出る気になった?」



ニヤリと口端をあげる哲也はいつもの余裕たっぷりな哲也で。

そんなことにすらドキドキする。

なに考えてるか分からないミステリアスな哲也だけど…




「ずるい、私の台詞!ずっと哲也のこと好きだったの。啓司は断った。最後のダンパ、哲也と踊りたい!」

「ど〜しよっかなぁ!」

「…哲也!」

「キスしてもいい?」



答えになってない哲也の問いかけに、思いっきり動揺するけど。




「…ど、どうぞ」




そう言って強めに目を閉じる。

哲也の手が私の肩に乗っかってゆっくりと気配が近づく…

心臓が笑っちゃうぐらい脈打っていて…




「緊張しすぎ、力抜いて…」



そんな哲也の声がしたすぐ後、柔らかい温もりが唇に触れた。

触れた瞬間哲也の腕が私の腰に回って身体を引き寄せられる。

わけも分からず目を閉じる私に、チュって小さなリップ音がして哲也の温もりが離れた。



「…苦しい…」



息を止めていたせいで思わず大きく息を吸い込む私を見て、哲也が楽しそうに笑っている。



「今時キスで息止めんの古いから」



ポンポンって頭を撫でられたけど。



「ユヅキの初キス貰っちゃった」

「初キスなんて言ってないよ」

「どう見ても初めてだろ、その反応」

「……知らない」

「素直じゃないんだから。いいよ、ダンパ出てやるよ、ユヅキと」

「えっ?」

「それ言いに来たんでしょ?」

「うん」

「俺それ待ってたし」

「そうなの?」

「そうだよ…」

「よかった…」




後から聞いた話だと、ゆきみの言う通り哲也は啓司の想いを知ってたから、色んな躊躇いがあって私に強きに来れなかったって。

もっと早く啓司に伝えていたら?って思うけど、きっとこれが今の私の精一杯なのかもしれないって。


はれて哲也の彼女になった私は、哲也のキスに慣れるのに毎日必死で。




「うわ、何だよこれ!見てユヅキ!」




差し出されたスマホの画面にはゆきみと直人くんのラブラブショットなインスタ。




「俺達もやる?」

「やらない!」

「だよな!」

「載せなきゃいいよ…」



人様に見せるなんてとんでもないけど、哲也のことこれから信じていくって決めたから、私も前より素直に気持ちを伝えていこうって思うんだ。

啓司が教えてくれた、大事なことを、ちゃんと守っていくからね。





*END*
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