▼ やる気スイッチ5
必然的に啓司の彼女ってレッテルが貼られた。
「ユヅキちゃん、いつから啓ちゃんのこと好きだったの?」
文化祭当日、後夜祭を前にして突然ゆきみに聞かれた。
瞬きを繰り返す私をジッと見つめるゆきみ。
「え?」
「…わたしユヅキちゃんはてっちゃんのこと好きなんじゃないかって密かに思ってたんだけど外れちゃったなぁ〜」
「…どうして?」
「いつも見てたように見えたけど。ユヅキちゃんの視線がてっちゃんに伸びてるように…。違った?」
どうしよう。
ドクンっと胸が脈打つ。
ゆきみにバレているなら、哲也や啓司にさえバレているのだろうか?
無言で俯く私を見てゆきみがポンっと背中を押す。
え、なに?
「ゆきみ?」
「やる気スイッチ押してあげる!ポチっとね」
「え、ゆきみ?」
背中を指でポチっと押すゆきみに困惑しながらも次の言葉を待つ。
「啓ちゃん、気づいてるよ。ユヅキちゃんの気持ち。俺が強引に押したからかな?って。いつも哲也のこと見てるのも気づいてたしって。てっちゃんも啓ちゃんがユヅキちゃんを好きなこと分かってて身を引いたんじゃないかって…。啓ちゃんなりに悩んでた。高校生活最後のダンパは好きな人と出ようって言ったじゃない、ユヅキちゃん!てっちゃん誘い全員断ったんだよ。ユヅキちゃんと出たいから…」
「どうしよう…私、どうしよ…」
泣きそう。
自分の弱さのせいで、みんなを傷つけてる。
「ポチってしたからもういけるよね?」
「いけないよ、今さら…」
「啓ちゃんの勇気、無駄にしちゃダメ!ね?」
「でも…」
「大丈夫、啓ちゃん地味にモテルし!最後だよ、ガンバロ!」
ニッコリゆきみが微笑んだ次の瞬間「ゆきみちゃん!」聞こえたのは直人くんの声。
「あ、直ちゃん!」
「写メ撮ろうよ?インスタに載せるから」
スマホ片手にゆきみの傍に来る直人くんに連れて行かれてしまった。
幸せそうな二人の後ろ姿に、すっかり消えてしまっていたやる気が湧き起こってくる思いだった。
みんな勇気出して頑張ってるんだって。
友達以上の気持ちがないのに啓司の彼女って言われるのも、失礼な話だよね。
「よしっ!」
気合いを入れて私は校内にいるであろう啓司を探した。
思いの外すぐに見つかる啓司。
B階段の溜まり場でみんなで話していた啓司が私に気づいてそこから抜けだした。
「どうした?」
「あの…」
「おう」
「ダンパなんだけど…」
そこまで言うと、啓司の顔から笑みが消えた気がした。
でも言わなきゃダメ。
いつまでたっても前に進めない自分はもう、卒業したい。
「…ごめんなさい!やっぱり私、啓司とダンパ出れない。どうしても諦められない人がいるの、だから本当にごめんなさい!」
ガバリとその場で頭を下げた。
そんな私の肩に手をかけて頭を上げさせる啓司。
見つめる瞳は真剣。
「分かったよ。つーか言うの遅くねぇ?お陰で他の子探すことできねぇじゃんかよ」
コツって痛くないゲンコツが私のコメカミに当たる。
こんな時にまで優しい啓司を選ばなかったこと、いつか後悔するんだろうか?
「本当にごめんね?」
「いいーって、ずっと待ってたし、”ごめん”って言われること。これで俺も前に進める…ありがとうな」
クシャクシャって私の髪の毛を撫で回す啓司に涙が出そうになってしまう。
でも泣かない。
泣きたいのはきっと啓司の方。
「啓司…」
「ほら早く行けよ。哲也なら屋上で塞ぎ込んでたぞ?」
ポンってゆきみみたいに背中を押してくれる啓司。
本当にありがとう。
「ありがとう、本当にありがとう!」
啓司に押されて屋上まで走った。
廊下は走っちゃダメだけど、今だけはごめんなさい!
一世一代の大告白だから。
バタン!と重たいドアを開けると外からの光で目が眩みそうだった。
夕焼けに染まった空をボーっと眺めている哲也が、ドアの開いた音でこちらを振り返る。