▼ やる気スイッチ4
「ユヅキ、マジでダンパ参加すんの?」
自転車を漕ぎながら啓司が小さく聞いた。
そうやって気にかけてくれる所も優しいよね。
「うん…」
だけど哲也をどう誘えばいいのか分かんなくて。
「もしかして、哲也と出たい?」
不意に聞こえた啓司の言葉にドキッとする。
前を向いたまま言葉を発する啓司がどんな顔なのか私には見えなくて。
「あの、啓司?」
「違うなら俺と出ろよダンパ」
……え?
横に座って啓司の腰に回した腕に、そっと手が重なったことで、私の心拍数が更に上がる。
「え、啓司…?」
「お前2回も言わせるの?確信犯か?たく。仕方ねえからもう一回言う。ダンパ、俺と出て欲しい。俺だって最後のダンパぐらい好きな奴と出たい…」
うそ。うそ。うそ。
啓司が私を?
うそだよ、そんなの。
「冗談だと思うなよ?マジで言ってる。真剣に考えろよ、俺のこと…。後悔したくねぇ、諦めないからユヅキのこと」
そうなのかも?って思っていなかったわけじゃないけど、でもまさかって。
啓司に限ってまさかって。
何も答えない私にチラっと啓司の顔が後ろを振り返る。
ドキッとして俯く私を横目で確認して笑われた。
「気持ちの整理がつくまでそのままでいいから」
優しい啓司の告白に、胸が痛かった。
こんなふうに言われて断る女はいるのだろうか?
啓司のこと、男として見ていた私じゃないけど、啓司の想いは十分に伝わった。
それを嬉しいと思わない女がいたら見てみたい。
「ありがとう」
「やっと喋った、ばーか」
前を走るゆきみと哲也を見て何とも複雑な気持ちでいっぱいいっぱい。
だけど決めたんだ、最後だから頑張る!って。
心の中で決めてる気持ちがあるなら、答えは早く出した方がいい。
「哲也」
「なに?」
サーティワンの前でガラスに顔をピッタリくっつけて選んでいるゆきみと啓司。
そんな2人を一歩下がった場所から見ていた哲也のところにさり気なく移動した私は哲也を呼んだ。
「後で話したい…」
そう言う私をジーッと見てニッコリ微笑む哲也。
「良かったね。ダンパ啓司に誘われて!似合ってるよ、お前ら!」
……なによ、それ。
聞いてたの?
聞こえてたの?
どっちでもいい。
そんな言い方……ずるい。
哲也にだけは言われたくないのに。
哲也にだけは……―――――「うん」。
何も言えなかった。
否定すらできない私を馬鹿だと笑えばいい。
だけど、今更変われない。
どんなに頭で心で願っていてもどこかでストップをかける傷つくのが怖いこんな弱い私に、哲也が気づくわけない。
その日の帰り、啓司のダンパを受けたんだ。