SHORT U | ナノ

 やる気スイッチ3

「何してんの?」



放課後。

隆二くんに断りを入れに行ったゆきみを心配してついていったのは啓司。

ゆきみも啓司がいて少しホッとしてたから私は教室で待ってるってそう言ったんだ。



「哲也…あ、ゆきみ待ってる」



空いたドアの所に手をかけてこっちを見ている哲也にドキっとする。



「へぇ。断るの?隆二」

「んー。断るって。心配して啓司が一緒に行ってる!」

「そ。で、ユヅキは誰とダンパでんの?」



……今聞くんだ。

そこから動くことなく一定の距離を保ってる哲也。

今ここには私と哲也の二人きり。

教室にも廊下にも誰もいない。

チャンス、だよね。

立ち上がってゆっくりと哲也の方に歩く私を真っ直ぐに見ている哲也。



「哲也、は?」

「俺が聞いてんだけど?」



ですよね。

そんな怖い顔しなくてもいいじゃん。

隆二くんがどんな気持ちでゆきみを誘ったのか今更分かった。

そして「ごめんなさい」を、言いに行ったゆきみの気持ちも。


哲也と出たい!!

喉の奥から出てきている思いは、声にならないで飲み込んでしまう。

告白までもいかないけど、哲也のこと好きって気持ちは伝わるはず。



「あの、私……て……」



ダンって音がして、えっ?って顔をあげた私の目の前に哲也の綺麗な顔が見える。

これは、なに……

真っ直ぐに私を見つめて唇を寄せる哲也に……




「何すんのっ!?」



手で哲也の胸を押していたんだ。

こんなの反則……

何も言わずにこんなのずるい。

哲也の気持ちが何も見えてないのに……



「…悪かったな…」



スッと私から離れる哲也に胸がドクンと脈打つ。

謝ってほしいんじゃない!



「ま、待ってよ哲也っ」

「なんだよ」



気づいたら哲也の腕を掴んでいて。

振り返った哲也は私をドンっと壁に追い込む。

ふわりと香水が鼻をつく。



「哲也待ってよ、なんで?」

「…待つの嫌いなんだけど」

「わ、私は哲也のこと……」



真っ直ぐな瞳に見つめられて何も言えない。

好きって一言がどうしても言えない。

一緒にダンパでたい。

それすら言えない。





「ユヅキ!?哲也!?」



聞こえたのは啓司の声。

廊下の向こう側からこちらに向かって歩いてくる。

大きな啓司の背中に見え隠れしている沈んだ顔のゆきみと一緒に。

パッと哲也から離れる私はそちらを向いて「お帰り」笑顔を見せた。



「なに、してんの?お前ら…」



啓司の目が私と哲也を交互に見つめている。



「なにも。話してただけ」

「断ったの?隆二」



私に被せるように話題を逸らした哲也。

啓司の後ろにいたゆきみは儚く「うん」って。



「分かってたって、隆二くん。応援してくれるって、直人くんのこと…」



すごいな、隆二くん。

私はそこまで察してあげられないし、そんなこと言えない。

毎年哲也が私以外の女子を誘う度に勝手に傷ついていた。

不参加ならやっぱり誘われないんだ。

参加しないくせに誘ってほしいなんてむしが良すぎるよね。



「そっか。頑張ったねゆきみ。今日はアイスも食べて帰る?啓司の奢りだよ!」

「おい!なんで俺が?」

「わーい!啓ちゃんありがとっ!てっちゃんも一緒に行こう!」



ゆきみがそう言うと、哲也は私を一切見ることなくゆきみの隣を歩き出した。


そのまま自転車置き場でゆきみを後ろに乗せる哲也。

だから当たり前に私は啓司の後ろ。

乗り慣れた啓司の背中は居心地が良くて安心できる。

なんだかんだで、優しい啓司は私の癒しの存在なのかもしれない。

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