SHORT U | ナノ

 やる気スイッチ2

「…ユヅキ、参加すんの?」



吃驚した顔の哲也に苦笑いの私。



「うん。最後だし…」

「誰と?」

「誰ってまだ決まってない…」




毎年哲也に誘われなかったらって思うと、参加する勇気が出なかった私。

最後ぐらい、玉砕覚悟で勇気出してみようか、なんて柄にもないことを思っていたんだ。



「ユヅキちゃん、嬉しいよっ!出よう一緒に!」

「ゆきみは直人くんでしょ?」

「…誘ってやる!やだわたし、最後のダンパは絶対好きな人とでる!ユヅキちゃんも好きな人と出よう!」




ゆきみにすら言えていない、私の気持ち。

ずっと哲也のことが好きで。

せっかく仲良くなったこの関係が壊れてしまうのが嫌で、怖くて。

表に出すことのなかったこの気持ち…




「たはは…そうだね」

「わーいわーい!」



ピョンピョン飛び跳ねて喜ぶゆきみを見ていたら私の中にも勇気がわいてきた。

だからといってそう簡単に誘えるもんじゃない。

とりあえず参加する意思を示しておけば、いざって時に哲也に声をかけても不思議じゃないよね?




「寝る」



哲也がデスクに顔を埋めて寝てしまう。

毎年哲也は私以外の子を誘っていた。

今年はどうかどうか、私に声をかけてくれないだろうか…。

哲也が眠ったことでこの話題は消えていった。






―――だけど事件はすぐに起きたんだ。





「どうしよう…」



5現が終わった後、ゆきみが教室から消えて、しばらくしたら放心状態で戻ってきた。

よろよろしながら私の席に来たゆきみは困ったような顔で。



「7組の隆二くんにダンパ誘われた…」

「えっ!?7組って直人くんのクラスだよね…」

「うん。直人くん…。隆二くんと直人くんって仲良いじゃん…―――」

「知ってるだろうね、隆二くんがゆきみを誘うこと…」

「ユヅキちゃんわたし、どうしたらいいの…」




泣きそうな顔で蹲るゆきみに何て声をかけてあげたらいいのかも分からなくて。




「嫌なら断れよ。自分で言ってたろ、最後のダンパは好きな奴と出る!って。諦めんなってゆきみ」




話しを聞いていたんだろう啓司がそうゆきみを慰めた。

そういう気の利くこと、なんで私は言えないかな…。



「啓ちゃんありがとう…。そうだよね、最後だもん…。でも隆二くんの気持ち思うと…辛いな」

「ゆきみが我慢することねぇよ。自分の気持ちに素直に頑張れよな」



ポンポンって啓司の大きな手がゆきみを撫でて…

こういうのっていいなって。

男女の友情って、成り立つんじゃないかって思えてくる。

啓司に限ってだけど。



だけどそんなものは本当は存在しないのかもしれない。


- 187 -
prev / next