▼ 4
だけど、その日の部活が終わっても岩ちゃんの機嫌が治ることはなくて。
だからといって、私が折れて岩ちゃんに話しかけるなんてこともなかった。
なんとなく気まずい空気のままこの日の部活は終わりを告げる。
「岩ちゃんと何かあった?」
ポンって背中を叩かれて振り向くと、敬浩がいて。
3年間同じクラスの私と敬浩は親友のようなものだった。
直人くんみたいにノリのいい敬浩と一緒にいるのは楽で、男女の友情は成り立つもんかな〜って敬浩に出会って思ったぐらい。
でも実際この友情が成り立っているのかは別として。
「…なんで?」
空手の胴衣を着たまま自販機でポカリを買った敬浩は私のことをジッと見ていて。
「だって不自然じゃない?何か二人…目も合わせないし」
「…すごいね敬浩…。ある意味天才だよ」
「ある意味は余計だけどな!」
ニカってえくぼを見せたその顔に少しホッとした。
「ここんとこずっと悪循環というか、負の連鎖中で…なんとなく今日も些細なことで岩ちゃんと言い合いしちゃって…結構凹んでた…」
私の言葉にポンポンって背中を撫でてくれる。
そのまま手を肩にかけて、何故かそっと抱き寄せられて。
「敬浩?」
「いいから」
「………」
「誰も見てねぇから…」
たった一言、その言葉をくれた敬浩。
その言葉の続きなんてなかったけど、敬浩がくれた一言はすごく温かくて。
ああ私、ここで泣いてもいいんだって。
自称強がりガールな私は、人に弱みを見せることはあまり得意じゃない。
でもそんな私をよく理解してくれている敬浩にしかできないことなんだって。
「…もう…ッ…」
小さく嗚咽を漏らす私の肩をグッと強く抱いて、誰にも気づかれないようにそっと私を隠してくれる敬浩は―――やっぱり私の親友だと思う。
「ありがとう」
そう言って敬浩の肩から頭をのけたのは、もうだいぶ陽も落ちていた。
夏だからまだ真っ暗ではないものの、空は曇っている。
「なんのことだよ!」
そう笑って私の背中をバシンって叩く敬浩。
「いったい!」
なんて叫んだけど、喝を入れてくれたんだって分かる。
それが敬浩の優しさだって。
「送らねえよ、一人で帰れんだろ?」
「平気だよ!」
「じゃあな、花火楽しめよ!」
「…うん。ありがとう!」
「だからなんのことだよ!?」
「イケメンでいてくれて!」
私がそう言うとパアっと目を見開いて、その後フッと鼻で笑う。
「それなら気にすんな!」
「あはは、またね!」
「おう、気をつけろよ!」
「うん、たかぼーも!」
「じゃあな!」
クルリと反転して家路につく。
さっきまで負のオーラ全開だったはずなのに、今は笑顔すら零れそうで…
ルンルン気分で家へと向かった私の前に…「なんで?」家の壁に背をつけてこっちを見ている岩ちゃんがそこにいた。