▼ 恋を、楽しもう3
そうやって時だけがどんどん過ぎていった。
「ユヅキさん、何回しました?」
定時になる寸前、アサミちゃんが私の横にきてまた小さくボヤいた。
頬をピンク色に染めているアサミちゃんは、隙あらば哲也とキスしてたんだろうか?
「……ゼロだけど」
「えっ!?冗談ですよねっ!?あたしとてっちゃん30回ですよ!」
信じられない!って顔で私を見つめるアサミちゃんは目ん玉飛び出しそう。
いやいやそんな顔されてもねぇ。
「てっちゃん!ユヅキさんと直人さんまだしてないって!あ、電話中だ。やだー女とかなぁ、早く切れ切れ!今日は哲也は空いてませんので、お断り!」
ムスッとしているアサミちゃんは哲也が大好きなんだなーって。
付き合いたての頃は私と直人もそれなりにラブラブオーラを放っていたけれど、さすがに3年も付き合っていると、そう簡単に人前でイチャイチャすることもなくなった。
だからって直人が嫌いになるなんてことは当たり前にない。
何なら毎日直人を好きになっている。
「いやもうアサミちゃん達みたいにラブラブできないよ、私と直人は…」
「そんなことないですよ!直人さんはいつもやる気満々ですって、てっちゃんにそう聞いてます!」
「いやそれ哲也の勝手な思い込みでしょ」
「いやいや、そんなことないです!直人さんがユヅキさんのこと大好きなのは誰が見ても分かります!」
熱弁してくれるのは有難いけど、私達はやっぱり……
「ダメですよ、ユヅキさん!たまには刺激的に直人さんを誘い出してあげてください!恋を楽しんでください!」
……恋を、楽しむ?
確かにアサミちゃんは喧嘩しても楽しそうで。
いつでも哲也好き好きオーラ全開で。
「私達、楽しそうじゃない?」
「そうじゃないですけど、ユヅキさん冷めすぎです!直人さんは男なんでちょっとキスしたらすぐにのってくると思います!」
「たはは、そうかな…」
「そうですよ!ほら、今日は定時であがって直人さんと熱い夜を過ごしてください!」
アサミちゃんにそう言われたけど、直人は外回りに出ていたようで、結局特に約束なんてしていない私は、1人寂しく帰路についた。
キスの日ねぇ……