SHORT U | ナノ

 恋を、楽しもう2

「経理行ってきまーす」



それでも仕事を始めた私達。

溜め込んだ領収書の整理が終わったんで経理にそれを持っていくのにエレベーターに乗り込んだ。



「待った!」



ダンって片手で閉まるエレベーターを止めたのは直人。



「俺も行く!」



ドキンとしたのはこの密室に直人と二人きりだから

肩が触れ合っている直人をチラリと見たら、直人もこっちを向いていて。

あ……

直人の顔がゆっくり近寄ってきて。

スッと手が私の頬に触れて。

ドキドキしながらゆっくりと目を閉じようとしたんだ。



「睫毛ついてる!」

「へ?」

「取れたぞ!」

「え、あ、ありがとう…」

「何?キスでもすると思った?」



クスッて笑う直人。

物凄い恥ずかしくなって「思ってない!ばーか!」パシッと直人の腕を軽く叩く。



「ハハ、ごめんごめん!」

「もー」

「まぁ、してもいいけど…」



ボソッと低い声で直人が言って笑った瞬間、ポーンとエレベーターが目的の階についた。

せっかくのチャンスだったのに、気分じゃなかった?

え、私だけ?期待してたのっ。

哲也から聞いてるよね?

でも直人は仕事とプライベートは基本分けてる人だから、笑い飛ばした?

きっとそうかな。

アサミちゃんの幸せそうな顔が浮かんで、それを首を振って頭の中から吹き飛ばした。

私達は私達。

私と直人はこれでいい。

エレベーターから出た瞬間、直人が上の階を押して。



「あ、そういや今日さ……」

「えっ?」

「なんでもねぇよっ!また後でな」



クシャっと私の髪を撫でると軽く手をあげる。

やっぱり知ってんじゃん。

余計に恥ずかしくて私は肩を竦めて経理に行った。

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