▼ 不器用な恋7
「…嫌いよ、健ちゃんなんて。大っ嫌い!邪魔しないでっ、私岩ちゃんが好きなのっ!!お洒落したっていいじゃないっ!少しでも岩ちゃんに釣り合う女になりたいって、そう思っちゃダメなのっ!?」
感情的に言葉を投げるユヅキは悔しそうな顔で。
今にも泣きだしそう。
俺がそんな顔させたん?
俺がお前を困らせたん?
「………」
言葉なんてなんもあらへんわ。
ユヅキがそう思うならもう、あかんやん。
俯いた俺を見て、ユヅキがフワっと俺から離れて行く。
階段とこで固まってる岩ちゃんに飛びついた。
「岩ちゃん行こう」
「いいの?旅行も…俺でいいの?」
言うたんは岩ちゃんで。
ユヅキじゃなくて俺に問いかけているようにも思えた。
「いい。岩ちゃんがいい。あんな奴嫌い…」
「…分かった。じゃあ週末俺と旅行、約束だから」
「うん」
「今日はユヅキん家行ってもいい?」
「…うん」
「お疲れ様です」
岩ちゃんがペコっと俺に頭を下げてから、臣ちゃん達の方に近づく。
「健二郎さんよろしくお願いします」
そう言ってユヅキと二人で消えて行った。
ああ―――終わったんや、恋に気づいた瞬間、失恋やったな。
こんなに早い失恋なんてあるんやって。
「不器用だな〜健ちゃん。まぁらしいけどね!この後どうしたらいいか分かる?」
しゃがみ込んでる俺と同じようにウ○コ座りをして目線を合わせてくる臣ちゃん。
魂抜けてる俺はペタンっとその場に尻もちをつく。
「もうない…なんもあらへんよ」
「そんなことないって!な、美月?」
「うん!だって嬉しそうだったもん、ユヅキさん。健二郎先輩にそのままで奇麗だって言われた時、泣きそうなぐらい嬉しそうな顔したもん!」
美月ちゃんに言われて思い浮かべたところで嬉しそうなユヅキの顔なんて浮かんでこおへんわ。
「近過ぎなんだよ、二人。いい同期なのかもしれないけど、俺思うんだよね―――男女の友情は成り立たないって!今追いかけるか、それともユヅキちゃんを信じて待つか…どうする?」
「どっちもせんよ。ユヅキは岩ちゃんを選んだんやん。ハッキリや、俺の前で。それが答えや」
あくまでそう言い切る俺に、臣ちゃんも美月ちゃんも「分かってないね〜お互い不器用なんだからぁ」って顔を見合わせてクスクス笑った。
俺に春はこおへん。
そう思ったんに。
「…なんで?」
結局悪飲みして酔い潰れた俺は、閉店時間にタクシーに乗せられて自宅マンションについた。
「お客さん大丈夫?部屋まで運ぼうか?」
「へーき、へーき!おっちゃん釣はいらんで〜」
マンションのエントランスの壁に寄りかかったユヅキがそこにおった。