▼ 不器用な恋5
「乾杯」
カチンとグラスをつけてボソッと呟いた。
飲み屋の個室に入ってふぅーっと溜息をつく。
「あの臣ちゃん…」
「んー?」
「二人きりやと思っとったっけど?」
「あーこれ気にしないで!だってこいつのが先約だったけど、健ちゃんの話聞きたかったから連れてきた!こいつ空気だと思ってよ!美月喋んなよ?」
「え、無理。だってユヅキさんのことでしょ?それならあたしもいた方がいいし!あたしユヅキさん大好きだから、そこは口出す!」
全然空気ちゃうやん。
まぁええけど。
「好きなんですか?健二郎先輩、ユヅキさんのこと!?」
単刀直入に美月ちゃんに聞かれて苦笑い。
自分でも自分の気持ちがわからへんねん、ほんまに。
「好きか嫌いかで言うならそら好きやけど、それが恋愛か?聞かれたらわからへんよ…」
ほんまに、ほんまにわからへんのや。
「なんでイライラしてたの?今朝…」
「あー。少し前にユヅキに言われてん。岩ちゃん紹介して欲しいって…。そんで3人で飲んでまぁええ感じやって。それ以降アイツ、なんや色気づいてて。いつもはパンツやんにスカート履いて髪もくるっくる巻いて爪もなんやキラキラしとって…俺になんの報告もせんでなぁ。したら今度は岩ちゃんが、週末ユヅキと旅行行こうと思ってるって、行ってもええか?って確認されて…」
そこまで言って続きの言葉が出てこんかった。
でも同時に臣ちゃんと美月ちゃんがキョトンとした顔したと思ったら二人揃って笑い出して。
俺はウーロンハイを一気に胃の中に流し込んだ。
「なるほど。簡単だよ、健ちゃん…それは、恋だよ!おめでとう!」
臣ちゃんがもう一度グラスをカチンとくっつけた。
「恋?ちゃうちゃう!あんな女好きちゃうわ!冗談よせよ」
「…あたしユヅキさんはもーちょっと上狙えると思ってるんだけどなぁ。今市隆二くんとか、直人さんとか…」
「隆二は大のお気に入りだもんね!なんで岩ちゃんにいったのか謎なんだけど。直人さんもショック受けたりして…。それはそれで面白ろそうだけど」
俺を無視して2人の会話は続いていく。
もう話は終わった!みたいな空気で。
好きとかちゃうわ、ほんまに。
「けど、岩ちゃんが健ちゃんにそう言ってきたってのが俺は気になる。あの完璧主義がさぁ」
「待って臣くん。あたし思ったんだけど、ユヅキさん健二郎先輩のことばっか岩田に話してたりしないかな?あたしと話す時もいっつも健ちゃん健ちゃん言ってる気がする。それってちょっと男はイヤなんじゃない?」
「…確かに。美月が隆二隆二言ってたらすげぇムカつく!え、じゃあ無意識でユヅキちゃんも健ちゃんのこと意識してたってこと?それが岩ちゃんには見えちゃったって…」
二人揃って視線が飛んできた。
なんや、怖い。
「逢いに行こう!ユヅキちゃん取り戻そう?ね?今ならまだ間に合うって!」
意味不明な臣ちゃんの言葉。
隣の美月ちゃんも臣ちゃんと同じ顔をしていて。
まだ飯も食うてへんっちゅうのに、「善は急げ!」ってせっかくの飲み屋から連れ出されたんやった。