▼ 不器用な恋4
「おい健二郎、これ間違ってんぞ?お前どうしたの?」
「へ?すんません、どれっすか?」
先輩である直人さんが書類をバサっと俺んデスクに置いた。
そこにはあきらかに数字が一列ずれた表があって。
あっかん、こんなケアミス恥やわ…
「すんません、直人さん!すぐに直します」
「いいけど、最近なんか仕事に身が入ってなくない?」
…そんなつもりないねんけど。
「失恋でもした?」
冗談やって分かってる。
でもなんや直人さんに言われてズキンっと胸が痛んだ。
「直人さん、失恋ってどういう意味っすか?」
俺の問いかけに変な顔でこっちを見返す直人さん。
確かに今の質問は意味不明かもしれん。
けど、わっからへんねん…
「あ、いたいた!健二郎さん、来週末ユヅキと一泊旅行行ってくるんっすけど…マジでもってっちゃっていいっすか?一応聞いておこうと思って!」
…最悪な言葉やった。
もうユヅキ呼びしてる所も、一々俺に確認取ってくる所も……
むっちゃ腹立つ!
「勝手にせえよ」
そう吐き捨てて俺は岩ちゃんと話すことなくフロアを出て行った。
喫煙ルームで乱暴に煙草に火をつけて煙を肺に落とすと少し気分が楽になった。
あかん、こんなことぐらいで。
缶コーヒーを買ってカコンと開けて一口飲んで小さく息を吐いた。
「珍しいじゃん、どうしたの?」
急に声をかけられて見つめたそこには一年後輩の臣ちゃん。
一年後輩やけど態度がでかくて俺にタメ語の臣ちゃん。
まぁええけど。
「すっごい乱れてるよ、気が!」
パッと見ただけなんやろうけど、俺を簡単に分析するのやめや。
「…いろいろあんねん…」
「いろいろ?」
「そうや、いろいろや!人に言いたないこともあるやろ?」
「恋の悩み?なに?ユヅキちゃん男できたの?」
……ちょお待て!
俺ユヅキんことなんて好きちゃうで?
なんでユヅキん名前出てくる?
俺を見てクスッて余裕に笑う臣ちゃんがなんや妙に上に見えた。
「今夜空いとる?」
俺の言葉に肩をすかして笑った。
「人に言いたくないんじゃなかったの?」
「気が変わった…ここじゃ言われへん」
「空いてるよ!迎えにきて?」
「おう」
もうこの男に託すしかあらへん!って。
1日岩ちゃんとユヅキのことばっか頭にあった。