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「戻ってきたんだ」
ゆきみの隣にストンっと座ると相変わらずニンマリした顔で一言。
だけどさっきとは違ってさすがに私も嬉しさが抑えられなくて…
「岩ちゃん何だったの?」
「うん…明日の花火、一緒に行こうって…」
「マジでっ!?」
ドデカイ声でゆきみが叫んだ。
慌てて顔の前で指を立てて「シー」って言うけど、グラウンドにいた部員達の視線がガッツリ飛んできた。
でもゆきみは大興奮気味で、「もうもう、ヤバイ〜!」一人でバタバタしてる。
「よかったね、ユヅキ!」
ニッコリ微笑んでそう言ってくれて。
「…ん」
「うん?嬉しくないの?」
ゆきみの言葉に苦笑いを零す。
なんていうか…
「たぶん岩ちゃん私のこと好きとかそういうわけじゃないと思うんだよね」
私の言葉に途端にゆきみの顔が変わる。
その表情どおり「はぁ?」…眉毛が思いっきりピクっと動いたわけで。
「彼女と別れたばっかなんだって。自分を一番に見てほしい…とかそーいうことも言われたみたいだし、いつも疑われてた…とか。そういうのひっくるめて…ユヅキは楽って…だから別に私のこと恋愛対象に見てはいないんじゃないかな…」
自分で言ってて切なくなるような現実に今更ながら気づく。
さっきは岩ちゃんに誘われたってことに嬉しくてついOKなんてしちゃったけど、これってやっぱり私が岩ちゃんを好きな分、切ないよね…。
私だって岩ちゃんの彼女になったらそう思うかもしれないじゃん。
他の子と話しちゃ嫌だ!とか、私を一番に見て!とか。
黙ってたって女子が寄ってくるイケメンだもん岩ちゃん…
「不安になる気持ちも分かる気がする…」
ユニフォームに着替えてグラウンドに入ってきた岩ちゃんは、ギャラリーの女子達に早速声をかけられていて。
笑い合う姿を遠目で見ていた私は小さく呟いた。
「うんうん、そうよね、分かるわ…剛典ってば本当粗相が悪いんだから…」
いつの間にかゆきみの隣に座って何故かオネエ言葉の直人くんがいた。
「なお、聞いてたの?」
「聞こえちゃったのよ、ガールズトーク!あたしも混ぜてぇ」
パチンってウインクするその顔が少しごっついけど…。
まぁ直人くんならいいかって正直思う。
「岩ちゃん別れたんでしょ?彼女と」
「あ〜うん。フラれたって。つーか最初からそんなに好きじゃないのによく付き合ったりできるよなぁ、岩ちゃん。俺には無理だわ」
さりげなくゆきみへの想いを口走っていることに直人くんは気づいてなくて。
そんな二人をやっぱり少し羨ましく思う。
「私も直人くんみたいな人を好きになればよかったな〜」
何となくしみじみそう言ったんだ。
本当にそう思ったから。
別に直人くんを今更好きになるなんてことは絶対にないけれど、直人くんみたいな人を好きになるのは正解だと思う。
だからそう言ったんだ。
「じゃあ直人と付き合えば?」
聞こえた冷たい声に身体がビクっと我に返った気分だ。
私を見下ろすのは当たり前に岩ちゃんで。
「…え?」
「ゆきみちゃんと取り合えば、直人のこと」
なんでそんな言い方すんの?
そもそも怒られる理由がないんだけど。
どうしてか私をジロっと睨んでいる岩ちゃんに無性に腹が立った。
「最低、岩ちゃん。私が二人のことそんな風に見てるわけないでしょ!そんなことも分からないから彼女にフラれるんだよっ!」
つい言ってしまった。
売り言葉に買い言葉。
でも今の発言は直人くんもゆきみをも侮辱する発言だと思って。
大事な友達のことそんな風に言われて黙ってなんていられなかった。
「うるせぇ女…。さっきの話、やっぱ無しにする。あいつもお前も同じだよ」
見たことないような冷たい目だった。
ゆきみがよく「岩ちゃんっていつもどっか意識飛んでるような目してるよね」って言ってたけど。
きっと今まで色眼鏡で岩ちゃんを見ていた私はそんなことにも気づけなくて。
だからその目だけで、私の全部を否定されたような気分になった。
舌うちをすると岩ちゃんはグラウンドの真ん中へと歩いていく。
大好きな後姿が小さくなっていって…
「なお、岩ちゃん酷いよ!」
「ああ、分かってる!悪いのは岩ちゃんだよ。ユヅキちゃんごめんな…。本気で言ってるわけじゃないからきっと…」
フワって隣にしゃがみ込んだ直人くんが私の頭を撫でてくれる。
だから思うんじゃん、直人くんみたいな人を選べばよかったって…
「もういいから…」
「よくないわよ!許せない、岩田の奴!」
ゆきみが私に変わって怒ってくれて、それだけで心がほんの少し軽くなる。
「花火…明日一緒に行く約束したんだよね?」
直人くんが私を見る。
「うん。でも…」
「信じて待ってて。俺見たいな奴…って思ってくれたユヅキちゃんの期待、俺は絶対に裏切らねぇから!!…ゆきみに誓って…」
…ほんと、かっこいいんだから。
うちのキャプテンは。
隣のゆきみは目からハートが飛び出そうな顔をしていて。
「直人くんの言葉なら信じなきゃね」
そう言ったら八重歯を覗かせて微笑んだんだ。